公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2016.12.13 (火) 印刷する

受信料制度は制度疲労を起こしている 髙池勝彦(弁護士)

 9月19日付の産経新聞が、いわゆるワンセグ訴訟ニュースに関連して、NHK受信料制度は制度疲労を起こしていると報道していましたが、そのとおりです。
 この受信料制度は、私の知る限り世界で我が国しかない制度です。
 放送法は、受信設備を設置した者は、NHKと「その放送の受信についての契約をしなければならない」と定めています(64条1項)。「契約をしなければならない」という日本語も変で、私は、これは英文の翻訳だと思っています。放送法は、我が国が連合軍の占領下にあって、主権がないときに作られた法律で、占領軍から色々な指令が英文で出されてそれを日本側が検討して日本語に翻訳して国会に提出されたからではないかと思うからです。

 ●訓示規定か強行規定か
 「契約をしなければならない」という条文について、私は、これは訓示規定であると解釈しており、そのような学説も少なくありませんが、多数説と判例は、強行規定であると解釈しています。
 訓示規定とは、対象者、通常は行政庁や裁判所に対して命令ないし禁止をするだけで、それを守らなかったとしても効力も生ぜず、処罰もされない規定です。そして、放送法64条1項には罰則規定がないのです。
 契約は、申込と承諾により成立します。契約の自由は近代民主主義国においては基本的な大原則であり、例外的な場合以外には契約を強制してはならないとされています。例外的な場合としては、たとえば、電気ガス水道など、住民がそれらの供給契約を申し込んだ場合に、電力会社などは承諾しなければならない義務があります。病人が医師に診察を申し込んだ場合にも医師は原則として診察に応じなければなりません。そのような例は少なくありません。いずれも、契約の申込を拒否すれば、契約を承諾せよという判決が出ます。
 いずれも供給やサービスを希望する者が契約を申し込んだ場合です。ところが、受信料の場合は逆です。放送する側(NHK)が契約せよと申し込むのです。この場合、申し込みを拒否できるかが裁判で問題になりました。これはいままで契約して受信料を支払っていたが、放送内容が偏向しているからなどの理由で支払を停止し、NHKが受信料を払えという裁判を起こした場合と異なります。

 ●注目される最高裁の判断
 放送契約締結強制ができるかどうかについて、今まで最高裁の判決はなく、高裁レベルでの判決が、平成25年と26年にあります。26年の判決は、私が担当した事件です。私の事件では、多数説に従い、承諾せよという判決が東京地裁で出され、東京高裁に控訴し、控訴棄却の判決が出ました。
 それとは別に、同様な判決が東京高裁の別の部で出ました。それが25年の判決です。これは、契約が成立しているのであるから受信料を払えという結論は同じなのですが、論理構成が異なります。この判決では、契約の申し込みに対して承諾せよという判決は迂遠である。契約の申し込みから一定の期間が経過したら、自動的に契約は成立するのだというものです。これはNHKの主張でもあります。
 しかし、これは法律の条文にも反し、立法の歴史からはずれています。当初法案が提出された時には、受信設備を設置した者は、「受信料を支払わなければならない」とあったのが、途中で、受信設備を設置した者は、NHKと「契約を締結したものとみなす」と変更され、さらに「契約をしなければならない」と変更されて、法律となったのです。これは昭和23年から25年にかけてですが、その後何度も「受信料を支払わなければならない」または「契約を締結したものとみなす」と変更する改正案が議論されたり提出されたりしましたが、国会で成立しませんでした。現在も高市早苗総務大臣の下で議論されていると報道されています。
 そのほか、この規定については、いつから受信料を払うべきかとか、消滅時効の規定の適用があるのかどうかとかといった未解決の問題があります。上記の、途中から受信料の支払いを拒否した場合の受信請求権の消滅時効については、従来NHKは10年を主張していましたが、平成26年に最高裁は初めて消滅時効の期間は5年であると判決し、この問題は決着しました。
 私の事件について、最近、最高裁は上告を受理し、さらにそれを大法廷に回付するという決定をしました。どのような判断が出るのか注目しています。

 ●スマホだけでも契約の義務?
 かつて、ラジオやテレビはNHKだけでした。その時代にラジオやテレビを買った者が受信料を払うのは当然であるともいえますが、現在は多数のテレビ局があり、技術的にも金を払わなければ受信できないようにすることは可能です。また、ワンセグ機能付きのスマホは持っているが、テレビは見ないという者も多数います
 最近さいたま地裁で、ワンセグ機能付き携帯電話を持っているだけでは契約承諾義務がないとの判決が出ました。現在東京高裁で係属中です。現在多くの者が、テレビは持っていないのにワンセグ機能付きの端末を持っているだけで受信料を支払っているのです。
 このような時代に、スマホを持っているだけでNHKと契約しなければならないと解釈されるような現行法は制度疲労を起こしているといっても差し支えありません。