米国は民主主義諸国のリーダーであることをやめ、第2次世界大戦後に築かれてきた米国主導の世界秩序は終わりを告げるのか―。米国の同盟諸国は固唾をのんでトランプ米新政権の発足を見守っている。
20日のトランプ大統領就任を前にした、主要閣僚候補による上院の指名承認公聴会の発言は、同盟国の懸念に配慮する内容だった。とりわけ存在感を示したのは、国防長官に起用されるジェームズ・マティス退役海兵隊大将である。
●大統領と対ロ認識で違い表明
トランプ氏は強権政治家のプーチン・ロシア大統領に親近感を示し、東欧や中東でのロシアの勢力圏拡大を容認する態度を取ってきた。これに対し、マティス氏は公聴会で、①米国は戦後、ロシアと積極的に関与してきたが、成果は少なかった②プーチン大統領は北大西洋条約機構(NATO)の破壊を試みている―と分析。さらに、「世界秩序は戦後最大の攻撃にさらされている」と言い切り、脅威の筆頭にロシアを挙げた(2番目はテロ組織、3番目は南シナ海を軍事要塞化する中国)。
国務長官に指名されたレックス・ティラーソン氏は、最近まで石油大手エクソンモービルの最高経営責任者(CEO)で、石油事業を通じてプーチン大統領と20年以上の付き合いがあり、親ロ派閣僚の代表とみられていた。しかし、そのティラーソン氏でさえ、ウクライナに侵入し、クリミアを奪取した今日のロシアは「危険」であり、「再起するロシアをNATOが警戒するのは正しい」と言明した。
トランプ氏は選挙戦中、国防費を増やさないNATO同盟国は防衛しないとほのめかし、日本や韓国が駐留米軍経費負担を大幅に増やさなければ米軍を撤退させると発言して、同盟国に不安を与えた。対照的に、マティス、ティラーソン両氏はNATO同盟国に対する米国の防衛義務を再確認した。また、マティス氏は在日、在韓米軍の撤退計画がないことを強調し、ティラーソン氏は中国が尖閣諸島に軍事侵攻すれば日米安保条約が発動されるとの認識を示して、懸念の解消に努めた。
さらにティラーソン氏は、トランプ氏が大統領就任初日に離脱を宣言すると表明している環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について、「私は反対しない」と述べ、トランプ氏と一線を画した。
●重要度増す日米の閣僚協議
もっとも、主要閣僚が同盟関係重視をいくら強調しても、政策の決定権を握るのは大統領のトランプ氏であり、閣僚候補の議会証言だけで同盟国は安心できない。まともな閣僚が外交の根幹で大統領と対立したまま、政権にいつまでとどまれるかも分からない。
日本としては、同盟関係の重要性について首脳レベルの対話を通じてトランプ新大統領に認識させるだけでなく、米国と閣僚レベルの協議を密にすることで、国際主義に立脚する国務長官や国防長官の政権内の発言力が増すよう応援することが必要になってくるだろう。