公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.01.18 (水) 印刷する

拉致被害者救出にも憲法改正は必要だ 島田洋一(福井県立大学教授)

 拉致被害者の保護に関する日本政府の論理的および倫理的整合性を欠く姿勢について1月12日付の本欄で論じたところ、同17日付で国基研事務局長の黒澤聖二氏から補論が寄せられた。防衛法制の専門家による精緻な議論であり、問題点がより明らかになったと思う。
 黒澤氏によれば、在外自国民保護を目的とした実力行使が自衛権の適用範囲かどうかについて定説はないが、日本政府は米国による在イラン大使館員救出作戦(1980年)に際し、「自衛権を行使して(中略)国民の救出を行いうるということは、一般国際法上の問題として正当化される」と国会で答弁するなど、「自衛権を主張する米国政府に近い国際法解釈をしてきた」という。

 ●国家としての責務とは何か
 これを北朝鮮による拉致被害者の救出に即して見ればどうなるか。米国が自国民救出のため米軍を送ることを日本政府は国際法上「正当」と認める。それどころか、米国にとっては外国人である日本人拉致被害者の救出も同時に期待する。実際、安倍晋三首相は大要、「動乱時には米軍による救出という体制が取れるよう、米政府に拉致被害者の情報を提供し協力を依頼している」との国会答弁もしている(2015年7月30日の参院平和安全法制特別委員会)。一方、日本が日本人拉致被害者救出のため自衛隊を送ることは、仮に国際法上「正当」としても、憲法上許されない。米国人はじめ外国人の救出に当たることなど論外である――以上のようになろう。
 ところで、安倍首相には当初、この「矛盾に満ちた」(黒澤氏)状態を解消したいとの思いがあったようだ。
 新安保法案提出に向けて安倍政権下で出された「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書(2014年5月15日)は、1991年の衆議院安保特別委員会における「国際法上は自衛権の行使として認められる場合がある」とした外務省法規課長答弁と、日本国憲法上は認めがたいとする内閣法制局第1部長答弁をともに注記した上、以下のように述べて憲法解釈の変更を求めている。
 すなわち、「多くの日本人が海外で活躍し、2013年1月のアルジェリアでのテロ事件のような事態が生じる可能性がある中で、憲法が在外自国民の生命、身体、財産等の保護を制限していると解することは適切でなく、国際法上許容される範囲の在外自国民の保護・救出を可能とすべきである。国民の生命・身体を保護することは国家の責務でもある」と。この報告書は、現在も首相官邸のホームページにある。

 ●新安保法制でも放置された矛盾
 ところが新安保法案を具体的にまとめる過程で、結局、この矛盾は放置されることとなった。集団的自衛権に関する憲法解釈を修正するだけで手一杯との政治判断があったのかもしれない。
 筆者は、政府の「拉致問題に関する有識者との懇談会」の場で、なぜ拉致被害者救出にダイレクトに関わる部分の矛盾を放置したのかと質したことがあるが、担当官僚からは、従来の答弁との整合性に配慮したとの回答が返ってくるのみであった。もし野党が追及してくれば、「あなたは拉致被害者を放置してもよいというのか」と小泉純一郎氏式の〝開き直り答弁〟で戦えばよかったはずだ。
 ともあれ、安倍内閣は「解釈改憲」の道を封印した。であれば、「拉致被害者救出は政権の最重要課題」という以上、憲法改正は不可欠であり、これに全力を挙げるべきだ。