本欄に1月11日付で、櫻井よしこ国基研理事長が「憲法改正の好機は再来年まで」と題する一文を寄せている。
「(政治日程を見ると)憲法改正に向けて、国会論戦、両院による発議そして国民投票のための時間がとれるのは、今年から再来年の参院選の前までしかない」というのが政界通の見立てだという。その際、「改正の焦点は、9条2項であろう」という櫻井氏の論に同意した上で、各党に具体的に問いたいことがある。
●どうする拉致被害者の救出
1991年3月13日、衆院安保特別委員会において当時、外務省法規課長だった小松一郎氏は政府の説明員として、「身体、生命に対する重大かつ急迫な侵害」にさらされた在外邦人の救出に関し、要旨次のように述べている。
「その所在地国が外国人に対する侵害を排除する意思または能力を持たない場合、保護・救出のためその本国が必要最小限度の武力を行使することは自衛権の行使として認められる場合がある」。
北朝鮮が混乱状態に陥った場合の拉致被害者の救出は、当然その「場合」に当たるはずだ。
ところが、安倍晋三首相は新安保法制審議中の参院予算委員会(2014年3月5日)で、「わが国に対する武力攻撃が発生しているわけではない北朝鮮の内乱のような事態については、直ちに自衛権発動の要件に該当するとは言えない。自衛隊の特殊部隊を救出のため派遣するといった対応を取ることは憲法上難しい」と答弁している。その後、不思議なことに次世代の党(現・日本のこころを大切にする党、中山恭子代表)以外はどの党も、この解釈に疑問を呈していない。
安倍政権が集団的自衛権の限定行使に踏み込んだ法案を通したことは正しい。しかし、その法案を通すため、無用な縛りを含んだ便宜的答弁がなされたのは将来に禍根を残すものであった。
●足枷の撤廃は焦眉の急だ
「拉致被害者の救出は安倍政権の最重要課題」という首相の言葉に嘘はないだろう。自民党の総意も同じだろう。野党で表立って異を唱える向きも承知しない。
その最重要課題の解決に現憲法が足枷となっているわけである。共通認識がありながら、無為を決め込むのは許しがたい怠慢と言わざるを得ない。何も、敵の堅塁を急襲する「ランボー」タイプの作戦をやれというのではない。混乱の中での保護活動といった次元に過ぎない。最低限その程度は出来るように憲法のどの条項をどう改めるか。各党は明確な解答案を示す必要がある。さもなければ正直に「拉致被害者は放置します」と宣言すべきだろう。「再来年まで」とは「遅くとも」ということだ。「最重要課題」への対処に「早すぎる」ことはない。