公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.09.11 (月) 印刷する

危険増す日本の海、海自・海保の連携強化を 山田吉彦(東海大学教授)

 日本の海は危機的な状況に置かれている。沖縄県石垣市の尖閣諸島は国有化から9月11日で丸5年となったが、日本固有の領土である同諸島海域への中国公船の侵入は常態化し、月に3回の頻度で領海侵入を繰り返している。
 海上保安庁の巡視船は、尖閣諸島専従部隊を配備し、警戒を続けているが、中国公船の領海侵入は止まらない。そして、東シナ海では1000隻ほどの中国船が漁を行い、あたかも同海全域が中国の海であるかのごとく振る舞っている。現状において、中国のプロパガンダにより、世界の国々から「尖閣をめぐって日中間には領土紛争がある」と認識されていることは否めない。
 危機的な状況にある海域は、尖閣だけではない。五島列島や小笠原諸島海域にも中国漁船が雲霞のごとく押し寄せ、漁場を荒らしたことは記憶に新しい。そして、昨年の秋、1000隻ほどの中国漁船が日本海の北朝鮮海域に進出し、その内100隻以上が日本の海域に侵入して漁を行った。

 ●現状では限界フル稼働状態続く
 日本の排他的経済水域(EEZ)内にある能登半島沖の大和堆と呼ばれる好漁場では、おびただしい数の北朝鮮漁船が違法操業を続け、トラブルを恐れる日本漁船が漁に入れない状態が続いていた。水産庁の取締船が現場で警告を発しても、無視したり、取締船が移動後に、また漁を続けたりしていた。
 このため海保は7月上旬以降、大型巡視船などを順次派遣し、EEZ外へ退去するよう警告し、従わない場合は放水を実施してきた。8月中旬以降、北朝鮮漁船はほとんど確認されていないという。ただ、他の海域を含めて急増する海保の業務を継続するためには、現在の隻数、人員では限界があるのも事実だ。
 秋からは昨年のような中国漁船の侵出も危惧されている。このままでは能登の漁船は、中国、北朝鮮船により、漁場を放棄せざるを得なくなるかもしれない。
 2017年、海保において外洋警備にあたる巡視船は128隻。この数では447万平方キロにも広がる領海及びEEZを警備することは難しい。水産庁の漁業取締船にいたっては7隻に過ぎず、武器を持つことも許されず危険な密漁取締業務を行っている。

 ●態勢強化には長期の視点が必要
 「積極的平和主義」の根幹を為すのは、「積極的警備」である。しかし、海上警備にあたる人員、船艇の不足や外交問題への発展を恐れてか法執行への躊躇があり、有効な海上警備が行われていないのが実情だ。日本の管轄海域を脅かす隣国は、このような日本の海上警備の限界を知っている。
 政府は、海上警備要員の不足に対し、海保の定員増などの施策を進めている。しかし、この増加人員が一線に立つまでには5年から10年の歳月が必要だ。
 海上警備にあたる海保の要員増強とともに、政府が急ぐべきは、海上自衛隊に日本沿岸において紛争を未然に防ぐための警戒任務を与え、海保と連携する態勢を強化することだ。
 海上自衛隊もシーレーンの確保、北朝鮮対応などで人員、艦艇の不足に悩まされている事情は同じだが、退職自衛官の海保への再就職など、海自と海保の海上警備策の連携・統合を進めることも考えたい。威厳を持った海上警備の推進は、海洋国家・日本の主権とその国民の生活を守ることに他ならない。