第19回中国共産党大会とその後の一中総会は10月25日に閉幕し、2期目の習近平政権が発足した。一連の会議で、注目すべきポイントは3つあると考える。①後継者のいない新指導部人事 ②〝習近平思想〟の党規約入り ③鄧小平が主導した「富国路線」から「強兵路線」への方向転換―である。
まずは人事。選出された新しい最高指導部の7人はいずれも60代。ポスト習近平世代の50代は1人もいない。習近平氏の後継者の選定は今回の党大会で見送られたといえる。習近平氏の3期目続投の可能性が高くなったという分析もあるが、そんな単純な話ではない。
●「習降ろし」始まる可能性も
今回の党大会で、習氏の盟友、69才の王岐山氏が任期延長を狙ったが失敗し、結局引退したように、共産党内で現在の68才定年制を維持したい意見が根強い。5年後、今の王氏と同じく69才になる習氏の続投に対し、長老たちを中心に反発は必至とみられる。習氏による側近政治、恐怖政治に終止符を早く打ちたい各派閥の幹部も「習降ろし」を始める可能性があり、習氏の3期目があるかどうかは流動的だ。
また、ポスト習近平と目される共産主義青年団出身の胡春華氏と習氏直系の陳敏爾氏だが、今回は最高指導部入りしなかった。だが、失脚したわけではない。胡氏は2期目の習政権で、副首相として金融、財政などを担当し、陳氏は当分の間、引き続き重慶市党委書記を務めるとみられる。今後、胡氏、陳氏、それに習氏の続投を押す勢力が、激しい攻防を繰り広げることも予想される。権力闘争に敗れた大物政治家の失脚は、これからも相次ぐ可能性がある。
中国当局はこれまで、「共産党内には派閥や権力闘争などは存在しない」という公式見解を示してきた。習近平政権発足後、一連の大物政治家の失脚は「あくまでも汚職が原因」と説明する。筆者が北京駐在時代、「政治局常務委員だった周永康氏が党内の主導権争いに敗れた」との趣旨の記事を書いたところ、中国外務省から呼び出されて公式に抗議を受けたこともあった。
●「習思想」で言論締め付け厳しく
しかし今回、党大会後の10月29日に発表された中央規律検査委員会の報告では、失脚した「周永康、孫政才、令計画」の3人について、「野心家」で「陰謀家」と指摘し、彼らの排除は「隠された重大な政治的危機を未然に防いだ」としている。
共産党がみずから党内に権力闘争があることを認めるのは異例で、経済問題だけを口実に政敵の一族郎党を粛清するやり方はそろそろ限界に来ているかもしれない。「野心家」も「陰謀家」も毛沢東時代に多用された政治用語で、これからの党内抗争の中で「反革命」といった言葉が復活するかどうかが注目される。
党大会で決まった改正党規約では「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が行動指針として明記された。習氏と周辺は当初、「毛沢東思想」や「鄧小平理論」と同様に、「習近平思想」という簡潔な文言を狙っていたが、個人崇拝への党内反発で妥協に追い込まれ、戒名のような長い文言となった。習氏にとって不本意な結果であろう。
しかし、習氏の名前を冠した思想が党の指導指針となったことで、今後、習氏の意見や政策に反対することは、「党に反対する」ということになる。中国を改革開放に導いた鄧小平が唱えた「思想解放」の時代の終わりを告げる意味があり、中国国内における本格的な思想統制が今後、一層強化されるとみられる。習思想以外の考え方が否定され、党内外で言論への締め付けがますます厳しくなり、人権派弁護士、民主化活動家の受難時代が今後も続くだろう。
●「中国の夢」は周辺国には悪夢
また、習氏が党大会の開幕当日に行った3時間半に及ぶ政治報告は、経済問題への言及は少なく、「社会主義強国を目指す」や「中国人民解放軍を世界一流の軍隊にしなければならない」といった勇ましい言葉が続いた。
中国官製メディアは中国の歴代主要指導者の業績について、中華民族がアヘン戦争以来の長い屈辱の歴史を終わらせた毛沢東については「站起来」(立ち上がる)」と表現。改革開放を唱えて中国を高度経済成長に導いた鄧小平については「富起来」(豊かになる)」としている。そして、習近平氏については「強起来」(強くなる)とし、習氏を毛、鄧と同列に並べた。しかし、一期目の5年間、反腐敗キャンペーン以外ほとんど何も出来なかった習氏は、2人の偉大な先輩と比べて、その業績の物足りなさは明白だ。
2期目の習政権は、それを補うために、「中国が強くなった」ことを具現化しなければならない。 北京の共産党筋は、中国が強くなることの具体的内容について、「軍拡、外洋拡張、と失地回復だ」と述べた。中国は今後、自らが領有権を主張する台湾、南シナ海、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を取り戻すことを念頭に置いて具体的な行動を取り始める可能性もある。習氏は報告で「中国の夢を実現しなければならない」と何度も述べた。習氏がいう「中国の夢」は、周辺国にとって、悪夢そのものかもしれない。