公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.11.22 (水) 印刷する

井の中の枝野氏は大海を知らず 島田洋一(福井県立大学教授)

 先の総選挙で野党第一党となった立民党の枝野幸男代表は11月20日、衆議院本会議の代表質問で、安保法制の廃止と憲法9条改正への反対を改めて明確にした。
 産経新聞の記事から引いておこう。
《「(憲法違反の)安保法制を前提としながら自衛隊を憲法に明記したら、立憲主義違反を事後的に追認することになる」
 枝野氏は代表質問でこう力説し、安倍晋三首相に対し、9条に自衛隊の存在を明記する憲法改正の前に安保法制を廃止するよう求めた。「今のまま自衛隊を明記すれば、地球の裏側まで行って戦争ができることになる」とも語った。
 立民は衆院選の公約で、安保法制を前提とした9条改悪に反対すると主張してきた。安保法制は、部分的でも容認姿勢を示す希望の党との最大の相違点だけに、枝野氏は代表質問の場でも強い言葉で党の立場をアピールした。》

 ●本質付くポスト紙は読んだか
 ニュース映像で見た枝野氏は確かに、支持層に「筋を通す」姿をアピールすべく、声と表情にことさら力を込めていた。虚しい情景だった。
 米ワシントン・ポスト紙は11月20日付で「日本の問題は戦争挑発ではない。歯のない軍だ」(The problem with Japan isn’t warmongering. It’s a toothless military.)と題する同紙の元同紙北京支局長ジョン・ポンフレット氏の論稿を掲載している。この論稿を読んで、一層その感を深くした。
 ポンフレット氏は、日本戦略研究フォーラム上席研究員グラント・ニューシャム氏の談話を引き、日本の現状、日米安保関係の本質を鋭く突いている。一部引用しておきたい。
《ニューシャム氏は、日本が軍事改革に向かう上で最大の問題は、その安全保障におけるアメリカへの「病的依存」だと語る。ニューシャム氏はよく知る立場にある。海兵隊の大佐として、自衛隊との連絡将校を務めていたからだ。「日本側は『アメリカが槍、日本が楯の役割を務める』という言い方を好む。さて、戦闘において血にまみれるのは槍であって楯ではない。それは、日本のために死ぬことが想定されるのはアメリカ人だという意味だ」。》

 ●安倍氏の改憲論も正しく理解
 続いてポンフレット氏は、安保法制の意義に触れ、「2015年に安倍首相は、自衛隊が友邦の支援に駆けつけることを可能にする一連の法改正を主導した。それ以前は、日本はアメリカに守られるものの、お返しは出来なかった」と評価した。首相が提起している憲法9条の改正についても、単に「自衛隊に法的地位を与える控え目な」ものに過ぎないと正確にとらえている。
 ポンフレット氏は最後に、「もし日本が平和な場所に位置しているなら、懸念を呼ぶ軍事的な課題はないだろう。しかし北東アジアは、地球上で最も危険な地域の一つだ」と基本状況を再確認した上、「アジアで緊張が高まるにつけ、日本は、自らのため、そして友邦アメリカのため、より多くを為すことが求められている」と結んでいる。常識的な議論である。
 リベラル派のワシントン・ポストにこうした論稿が載る以上、保守派の認識は推して知るべしだ。
 枝野氏には、訪米し、米議会や言論界の重鎮相手に自説を開陳することを勧めたい。日本の左傾メディアや政治意識の低い有権者層に「筋を通した」と持ち上げられ鼻息荒くしている自らの愚かさを悟らざるを得ないだろう。井の中の枝野氏、大海を知らず、である。