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2018.03.20 (火) 印刷する

終わりの始まりかプーチン4期目 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 ロシア大統領選でプーチン大統領は76%の得票で予想通り圧勝した。次の6年の任期を全うすれば、首相としてメドベージェフ大統領体制を事実上仕切った時代を含め、実質在位は24年となり、ロシアではスターリン以来の長期政権。世界的にも異例の長さになるが、複雑かつ多角化する現代社会で長期政権は現実離れしており、変化に対応できない気がする。プーチン大統領が異常に高めた国粋主義の行方も気になる。

 ●高まりすぎた存在感が不安に
 ロシアのエリート層では、「2024年問題」が語られ、6年後への漠然とした不安があるようだ。6年後に71歳になるプーチン氏は、連続3選を禁止した憲法は改正しないとしており、後継者を指名して退陣するシナリオが有力なようだ。その意味で、今回の大統領選はプーチン時代の終わりの始まりと言える。
 18年のプーチン時代を経て、プーチン氏が内外政策の決定から側近間の利権闘争の調整まで、あらゆる問題に関与する体制が定着してしまった。過去に、プーチン氏が1週間以上姿を消すことがあったが、その際も決定は後回しになり、側近間の争いが表面化した。プーチン氏の存在感が高まりすぎた分、プーチン後の摩擦も広がるだろう。
 プーチン氏はロシアに初の消費社会をもたらし、社会を安定させた反面、資源依存経済が定着し、経済や社会の多様化ができず、民主化も大きく後退した。その功罪は大きいが、今後は長期政権のひずみが拡大しそうだ。閉塞感への若者の不満が強く、極端な貧富の格差やイスラム人口の増加も不安材料だ。

 ●日露交渉には基本的に逆風
 プーチン氏は3月1日の年次教書演説で、6種類の新型核兵器を誇示し、「米国のミサイル防衛は無意味になる」などと激烈な反米姿勢を鮮明にした。演説は今後6年間、欧米の経済制裁が続き、ロシアの国際的孤立が深まることを予感させた。ロシアの国力から見て、世界戦略の手を広げすぎで、演説の最後に述べた「米露軍縮対話の再開」がプーチン氏の本音だろう。
 一方、4日に英国で起きた元ロシア軍スパイと娘が神経ガスで重体になった事件も、ロシアの犯行説が濃厚で、ジョンソン英外相はプーチン氏の関与を指摘した。この事件は謎の部分が多いが、直前の反米演説と併せ、大統領選前に欧米との関係を緊張させ、国民の危機意識を高めて政権に結集させるショック療法とする見方もある。事実なら、プーチン体制下での国家の劣化を意味する。
 日露関係では、安倍晋三首相がプーチン氏との個人的親交をてこに領土交渉を動かそうとするのに対し、プーチン氏は対米関係を中心にした世界戦略の中で日本を位置づけており、逆風が強まっている。客観情勢は厳しいが、英国の事件で欧米との関係がますます険悪化しているだけに、プーチン氏が日本に多少融和姿勢で臨むことも考えられる。