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2018.05.28 (月) 印刷する

冬の時代に入った「安倍・プーチン」 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 5月26日にモスクワで行われた日露首脳会談は3時間近くに及んだが、平和条約交渉で進展はなかった。安倍晋三首相が「平和条約の第一歩」と位置付ける4島での共同経済活動も、事業化合意に至らず、ロシア側があまり望んでいないことを示した。両首脳の任期中の平和条約締結は困難な情勢であり、対露政策の再検討が必要だろう。

 ●両首脳の基本認識にズレ
 プーチン大統領は2016年の訪日時に、「領土問題の討議は微妙であり、大統領選が終わるまで待ってほしい」と頼んだとされるが、3月のロシア大統領選後、初の日露首脳会談でも前向きな姿勢を示さなかった。両首脳は必ず、通訳だけを同席させた差しの会談を行ってきた。今回も35分間行われたが、その内容は一切秘密だ。その場で領土の線引きなどが議論されている可能性もあるが、公表されている限りでは、進展はなさそうだ。
 平和条約をめぐる両首脳の基本認識にはズレがある。安倍首相が首脳間の親交を軸に領土交渉を動かそうとするのに対し、プーチン大統領は反米外交を基礎にした世界戦略の中で日本を見ており、領土を割譲するほど日本への価値を見出していない。欧米から制裁を受けるロシアは当面、国際的孤立からの脱却にG7の一員である日本を利用することに関心があるようだ。
 ソ連時代以降、ロシアは日米離間を対日戦略の最大目標にしており、現在もそれは変わらない。大統領が「島を返すと米軍基地ができる恐れがある」とけん制するのも、日米離間の思惑があるからだ。その点、安倍首相がトランプ大統領べったりなことは、プーチン大統領には不満だろう。ロシアは、自主防衛を主張した石破茂元自民党幹事長に関心を持っているとの説もある。

 ●「新アプローチ」の再検討も
 安倍外交は官邸主導で大きな成果を挙げたものの、対露外交に関する限り、長谷川榮一補佐官や今井尚哉秘書官ら「経産省主導外交」であり、彼らが「新アプローチ」や「4島共同経済活動」を主導してきた。外された外務省の幹部は「領土帰属問題が脇に追いやられた」と批判的だが、確かに平和条約交渉は領土線引きが最大の焦点であり、共同経済活動も環境整備にすぎない。
 安倍首相は今年9月初め、自民党総裁選に先立って訪露し、再度プーチン大統領と会談する。来年6月の大阪でのG20 首脳会議では、プーチン大統領が訪日する予定だ。首脳対話は続くが、同様の議論が繰り返されるとみられ、突破口はありそうもない。
 ロシアが期待する日露貿易や日本の投資も、ロシアの経済不振や欧米の制裁で逆に縮小しており、ロシア側は経済的に日本にあまり期待していない。一方で、日露の安保協力は進んでおり、対中戦略や朝鮮半島問題で日露の安保対話は効果がある。
 いずれにせよ、成果が現れそうもない平和条約交渉を今後も延々と続けるのか、現在の「新アプローチ」でいいのか、再検討が必要だろう。