世界貿易機関(WTO)は7月11日、米中貿易戦争の収束が見えない中で、中国を対象にした貿易政策審査報告書を発表し、中国は依然、市場は閉鎖的な状態にあると指摘した。これに先立ち、米国通商代表部(USTR)は、1月19日に公表した「中国のWTOルールの遵守状況に関する2017年年次報告書」で同様の指摘をしており、米国の主張を裏付けた格好となった。
中国は2001年のWTO加盟にともない、そのルールに従うと宣言しながら、市場原理に基づかない国家主導の経済運営で世界を欺いてきた。米国のデニス・シアWTO大使は、中国の国家主導による通商・投資が生み出す害悪は「もはや許容し難い」と訴え、WTOルールの順守を主張するだけでは不十分との認識を示した。
●改善見られぬ市場の閉鎖性
WTOによる中国の「貿易政策審査報告書」は7回目だが、依然、国有企業への支援や外国企業の参入規制など政府の経済への関与が大きく、市場は閉鎖的な状態にあると指摘し、貿易政策の透明性を高めることを求めた。
中央・地方政府による価格統制、先端技術産業、漁業、電気自動車等に対する補助金とその情報の不開示、知的財産権保護に関する法律改正の停滞など、自由な市場経済とは程遠い実態が浮かび上がった。しかも、これらの指摘は、2016年に実施された前回の審査結果とほぼ同様の内容である。
シア大使は、7月26日のWTO一般理事会で、「中国の貿易破壊的経済モデル(「CHINA'S TRADE-DISRUPTIVE ECONOMIC MODEL」)」と題する文書を提出し、「中国は自由貿易や世界貿易システムの忠実な擁護者と繰り返し表現しているが、実際には世界で最も強力な保護主義的で、重商主義的経済である」と指摘した。
さらに、中国では法律が国家の道具となり、裁判所は共産党の方針に即して構築されているとも指摘し、経済改革は政府や共産党による経済運営を取繕い、国有企業など政府部門の強化する手段となっていると強調した。
シア大使は、現在のWTOでは中国を変革することはできないとし、必要なのはWTOそのものの改革と中国自身が変革することだと主張している。
●WTO加盟後押しした日本
トランプ米大統領は7月25日、欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長とホワイトハウスで会談し、米欧間の貿易摩擦に関してEU側から譲歩を引き出し、両者の全面衝突はとりあえず回避された。トランプ氏はディールメーカー(取引交渉者)の名を遺憾なく発揮した形だが、単にディールメーカーと見なすだけでは、問題の核心を見誤りかねない。
トランプ大統領の「インド太平洋戦略」に基づき、米国のマイク・ポンペオ国務長官は7月30日、インド太平洋地域のインフラ整備などを支援するファンドを設立すると表明した。
中国は広域経済圏構想「一帯一路」などを通じて影響力を強めているが、米国としては民間主導の開発支援に重点を置くことで、国家主導の中国の姿勢との違いを鮮明にし、中国のインド・太平洋地域への支配を牽制する狙いがある。
中国のWTO加盟の道をいち早く開いたのは日本であった。日本は、中国の加盟交渉を促進させるため、他の先進国に先駆けて日中間交渉を妥結させた。それがその後の中国とEU及び米国との二国間協定に繋がり、中国はWTO加盟を果たした。その意味でも、日本には、中国の不公正な貿易体制を正すために積極的な役割を果たす責任と覚悟が求められる。