米国とトルコの関係悪化が表面化し、世界経済の先行きを一層不透明にしている。トルコ通貨リラの対ドル相場は一時20%も下落し、過去最安値を更新した。この影響は、アルゼンチンやロシア、南アフリカなどの通貨安にも波及し、アルゼンチン中銀は政策金利を45%まで引き上げている。
トランプ米大統領とトルコのエルドアン大統領の強権的な政治手法の衝突が、トルコの反米・親中露へと傾斜させている。トルコの民主主義と自由な市場経済が弱体化すれば中露を利するだけだ。
●政治に翻弄される自由経済
「トルコ・ショック」の直接的なきっかけは、2016年7月にトルコで起きたクーデター未遂事件に関与したとしてトルコが米国人牧師を軟禁、解放要求を拒否されたトランプ大統領が輸入制限を強化したことだ。両国関係が悪化した背景には、エルドアン大統領がイラン支援を強めていることも否定できない。
クーデター未遂事件を契機に大きく落ち込んだトルコの景気だが、2017年には早くも回復し、同年の国内総生産(GDP)成長率は通期で7.4%を記録した。
ただ、トルコ経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は依然脆弱だ。米国の長期金利上昇によるドル高圧力にさらされ、多額の対外債務残高を抱えている。原油高で経常赤字は拡大し、インフレも加速傾向にある。経常赤字の対GDP比も2017年末で5.5%と世界最高水準だ。リラの急落はトルコ自身の構造問題にも起因している。
トルコ政府は経常赤字の穴埋めを、欧米を中心とする海外からの直接投資や長期借入に頼ってきたが、欧米との関係悪化や金利の上昇で今後は難しくなりそうだ。
トルコ中銀は、リラ買い介入で実質的に金利を引き上げ、金融引き締めを継続する構えだ。しかし金利の急上昇は国内景気には急ブレーキとなる。トルコ経済は今年後半以降、大きく減速する可能性を否定できない。トルコは厳しい道ではあるが、思い切った緊縮財政をとるなどギリシャの再生に倣うべきだ。
●早期の収拾へ日米欧は結束を
今回のトルコ・リラの急落は、欧州系金融機関の体力低下を招くとの連想を過剰に引き起こし、市場マインドを悪化させている。
だが、トルコのGDPは世界の1%程度に過ぎない。また、世界の銀行システムのトルコへの与信は2018年3月末現在で2233億ドルで、総与信額の 0.8%に過ぎない。トルコの通貨危機が、直ちに欧州銀行の経営悪化につながる可能性は低い。
ただ、エルドアン大統領の強権下でトルコ中銀の独立性は脅かされており、利上げなど正攻法による通貨安定策がとれない状況にある。国際通貨基金(IMF)の支援も主権の放棄に繋がるとして拒否している。
問題が長期化すればトルコ経済は失速懸念を強め、エルドアン大統領に中国やロシアへ一層接近する口実を与えることだろう。トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でもあり、米欧同盟の新たな波乱要因ともなる。トルコの民主主義と自由な市場経済を守るためにも、日米欧の結束は強化する必要がある。