公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.03.26 (火) 印刷する

求心力の低下が露呈したEU 冨山泰(国際問題研究者)

 欧州連合(EU)とその主要加盟国が中国の影響力拡大への警戒を強める中で、有力加盟国の一つであるイタリアが中国台頭の象徴である「一帯一路」構想への参加を正式に決めたことは、EUの求心力低下を世界に印象付けた。手続きで難航する英国のEU離脱を待たずとも、国際政治におけるEUの存在感の後退は覆い難い。

 ●対中政策で分裂する加盟国
 EUの執行機関である欧州委員会は3月12日、対中政策の戦略文書を公表し、欧州理事会(EU首脳会議)に送った。同文書は、中国を戦略的パートナーとする基本方針を維持しながらも、先端技術の開発分野で中国は「経済的競争相手」であり、中国が自由民主主義に代わる統治モデルを推進している点では「制度的なライバル」であると位置付けた。これは、中国の台頭に無頓着だった従来のEUの姿勢を大きく転換するものだ。
 3月22日のEU首脳会議は、戦略文書の提出を受けて、対中関係の在り方について意見交換をした。次世代通信規格「5G」の構築からファーウェイ(華為技術)など中国の通信機器メーカーを排除するよう米国から圧力を受けている問題については、欧州委員会の勧告を待つこととし、結論を先送りした。この点は米欧間に意見の食い違いが残る。
 首脳会議後、ドイツのメルケル首相は、イタリアが一帯一路に参加する覚書を中国と交わしたことについて、「こういう問題では一致して行動する方がもちろん良い」と述べ、イタリアの単独行動に苦言を呈した。
 フランスのマクロン大統領は「欧州が(中国の行動に)無頓着な時期は終わった」と語り、26日の中仏首脳会談2日目(パリ)にメルケル首相とユンケル欧州委員長の同席を求めた。中国に懐疑的な欧州3首脳の団結を習近平中国国家主席に見せる。
 しかし、一帯一路への対応でEU加盟国は分裂している。EU脱退を決めた英国を除く加盟27カ国のうち、東欧と南欧の13カ国が既に一帯一路参加の覚書を中国と交わしており、イタリアの参加で覚書締結国は半数を超えた。しかもイタリアは、EUの母体となった欧州石炭鉄鋼共同体の原加盟6カ国の一つで、EU内での重みが新しい加盟国と違う。

 ●「欧州人よ、目を覚ませ」
 ハンガリー出身の投資家ジョージ・ソロス氏は2月11日の国際言論組織「プロジェクト・シンジケート」への寄稿で、「欧州人が目を覚まさなければ、EUは1991年のソ連の道をたどる」と述べ、このままではEUがソ連のように崩壊すると警告した。ソロス氏は欧州各国で反EU勢力が力を付けていることに警鐘を鳴らしたものだが、対中政策をめぐる欧州の分裂はEUの存在感低下に拍車をかける。
 EUが国際社会の一極として機能しなくなれば、欧州は米中ロが影響力を競い合う草刈り場となりかねない。それが既に始まっているという見方もある。日本の対中戦略上、欧州は重要なパートナーになり得るだけに、EUの行方から目が離せない。