大関昇進伝達式で、貴景勝は「武士道精神を重んじ、感謝の気持ちと思いやりを忘れず」と述べ、記者会見でも「勝って驕らず負けて腐らず」と語った。これまで、外国人横綱の中には品性に欠けたり、立場にないのに手拍子の音頭をとったりする関取がいた中で、久々に「これぞ相撲道」と思わせる言動である。
●山岡鉄舟の修身二十則
幕末に武士道精神の権現であった山岡鉄舟は、修身二十則を自らに課したが、その第1は「嘘を言うべからず」である。平気で嘘をつくどこかの隣国と、我が国は道徳規範が異なる。
米三軍士官学校の倫理綱領(Honor Code)の第1も「嘘(Lie)をつくな」であり、次いで「騙す(cheat)な」と「盗む(steal)な」が続く。筆者は、こうした米軍幹部の倫理綱領と日本の武士道精神が同盟の精神的共通基盤となっていると認識している。「偽ブランド品を量産して儲ける」、あるいは「サイバー空間から知的財産を盗取する」国とは道徳規範が異なるのである。
山岡鉄舟の修身二十則で2番目から5番目までは「君・父母・師・人の恩を忘れるな」であり、6番目から8番目までは「神仏・長者を粗末にするな」「幼者を侮るな」「己に心よからず事他人に求めるな」で、貴景勝の「感謝の気持ち」と「思いやり」に通ずる。騎士道で弱者を保護し、女性を大切にする精神にも共通している。
●新渡戸稲造の武士道
山岡鉄舟生誕25年後の1862年に生まれ、国際連盟事務次長となった新渡戸稲造は、ベルギー人から日本における宗教教育を聞かれ「ありません」と答えたところ「宗教がない!それでどうやって道徳教育をしているのか?」と問われて1900年に『武士道』を著した。セオドア・ルーズベルト大統領も愛読したと言われている。
彼が書いた『武士道』の徳目には「仁・惻隠の心」があるが「思いやり」や「恕(じょ)」とも言い換えることができる。勝って驕れば相手に対する思いやりに欠けて慢心に陥り、負けて腐れば父母や師の恩に応える事が出来ない。
相撲だけではない。アメリカン・フットボール、体操、ボクシング、レスリングと昨年続いたスポーツ界のパワーハラスメントのような不祥事も、「思いやり」「幼者を侮るな」「己に心よからず事他人に求めるな」の武士道精神を取り戻すことによって解消されるのではないか。