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2019.04.01 (月) 印刷する

サイバー・電磁波戦に現憲法は対応できず 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 先ごろ政府が決定した防衛計画の大綱とそれに続く中期防衛力整備計画に示されたサイバー及び電磁波領域戦は、現憲法下で限定的な活動しかできない。その理由は、米国などでは電磁波帯の割り当てにあたっては軍事利用が優先され、かつ緊急時の優先利用規定があるのに対し、我が国では現憲法で「通信の秘密」が規定され、かつ電磁波管理は総務大臣が行っていて、緊急時の規定もないからである。

 ●米国は有事の軍事利用を優先
 電磁波の軍事利用は19世紀後半から行われてきたが、最近特に脚光を浴びている理由は北朝鮮の核・弾道ミサイルに伴うEMP(Electric Magnetic Pulse:電磁パルス波)攻撃に対する脅威の顕在化と、ミサイル防衛でレーザー兵器が戦力化されてきたからであろう。
 米国防総省は2013年、電磁波スペクトラム戦略が制定され、統合参謀本部からは2016年に統合電磁波スペクトラム作戦のマニュアルが出されている。周波数の割り当ては連邦通信委員会と商務省電気通信情報局に権限があるが、軍事利用が優先される。また、1934年に制定された通信法には連邦政府のユーザーに緊急時の規定がある。
 英国でも昨年、国防省がサイバーと電磁波活動に関する統合ドクトリンを定めた。

 ●自縄自縛の日本の特異性
 我が国では憲法第21条で「通信の秘密は、これを侵してはならない」と規定されているために、サイバー攻撃の発信元を突き止めるためのアトリビューション(帰属)調査活動も容易ではない。公権力による積極的知得行為は「通信の秘密侵害」に抵触すると捉えがちだからだ。攻撃相手に反撃手段としてマルウエアを送りつけるサイバー攻撃も2000年に施行された不正アクセス禁止法に引っかかる。さらに現憲法には緊急時の電磁波優先使用等の規定がない。
 防衛省は2018年度予算で「高出力レーザーシステムの研究」として87億円を計上した。自衛隊法112条では電波法のレーダー及び移動体の無線設備に関する適用除外を定めているが、陸上に配備する電磁波兵器は総務大臣の承認・申請が必要で、かつ緊急時の規定がない。
 防衛計画の大綱や中期防衛力整備計画でサイバー・電磁波戦を強調しても、現憲法下では限定的な活動しかできない。こうした理不尽な状態を国民は認識すべきである。