公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.04.01 (月) 印刷する

読者惑わす世界の幸福度ランキング 石川弘修(国基研理事)

 3月下旬、国連が2019年版「世界の幸福度」ランキングを発表した。日本は156か国の内58位と、昨年より4つ順位を下げた。1位は2年連続でフィンランドが選ばれ、以下デンマーク、ノルウェーの順で、今回も北欧勢が上位を占めた。この調査は、文化の差異を無視し、調査対象者の主観だけで幸福感を数値化している。比較手法として無理がありはしないか。読者を惑わすランキングと言わざるをえない。
 この調査報告は、国連の「持続可能開発ソリューションネットワーク」が2012年から毎年、米ギャラップ社の世論調査の数値を使って行っている。各国1000人が、幸福感を10段階に分け、自分にとって最高の人生を10、最低の人生を1だとすると、どの辺に自分が位置するかを回答する。その結果を集計し、平均値を出したのが国別幸福度スコアだ。国連報告ではこの調査に加えて、国内総生産(GDP)、平均寿命、社会的支援、寛大さ、政治的腐敗度などの要素を基に幸福度を分析している。

 ●なにを幸福の基準とするか
 58位の日本は、この数値が5.88、韓国は5.89で54位と日本を順位で上回った。中国は5.19で93位だった。
 一方、北欧勢はフィンランドが7.76でトップ。以下、2位のデンマークが7.60、ノルウェーが7.55で3位、アイスランドが7.49で4位、スウェーデンは7.34で7位となっている。アメリカは6.89で19位だった。
 日本人の回答には幸福度も平均的な5前後が多い。例え幸福でも、国民性として自慢するのを避ける傾向が反映されているのではないか。一方、北欧などキリスト教圏では、苦しみがあっても、むしろ試練として前向きにとらえる文化がある。もちろん、教育や社会福祉の充実など、生活の安定も幸福感を高める要素としてあるのだろう。だが、人間の幸福感は進歩や希望があるかどうかにも影響を受けるが、この調査では無視されている。

 ●あのブータンは95位
 世界保健機構(WHO)の自殺者に関する2016年調査によると、トップ10位内ではないものの、北欧諸国はその後に続く11位から22、23位の上位を占めている。フィンランドが人口10万人あたり15.9人、スウェーデン14.8人、デンマーク12.8人の自殺者を数える。もっとも日本も18.5人と高いが、韓国は26.9人と突出して多い。幸福度が高いのに自殺率が高いというのは、ジョークではないかと疑ってしまう。
 当然ながら北欧圏では抗うつ剤の消費量も多い。経済協力開発機構(OECD)2015年報告だと、加盟国の内、アイスランドがトップ、イギリス4位、スウェーデン5位、デンマーク8位となっている。
 ヒマラヤ山脈南麓に位置する王国ブータンは、国民総幸福量(GNH)という指標を使うことで有名だが、人口80万人の9割以上が幸せと答えている。しかし、国連の幸福度ランキングでは95位となっており、調査の問題性を示している。
 幸福度調査では国際的な比較をするのではなく、各国それぞれの毎年の数値の変化から格差の拡大や貧困などの問題を嗅ぎ取り、各国に対する政策提言として生かしていくべきではないか。だが残念ながら、こうした観点から報じた新聞やテレビは見つからなかった。