近藤正規・国際基督教大学上級准教授は4月5日、国家基本問題研究所の企画委員会において、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと、インド経済を中心に政治・外交・安全保障などについて語り、幅広く意見を交換した。近藤上級准教授の発言内容は概略次のとおり。
●インド経済について
成長を続けるインドのマクロ経済は、平均経済成長率で7%台を維持し、為替レートで世界第6位、購買力平価で世界第3位に位置づけられる。この経済を引っ張るのには、内需が中心のため、米中貿易摩擦の影響も少ないという特徴がある。経済成長に伴い、貧困比率が低下する反面、雇用創出の面では課題が残っているとした。
モディ政権の経済政策を見ると、税制改革と破産法改正という点で一定の成果が見出せるが、土地収用法と労働法の改正はできなかった。農村に対する配慮も足りず、雇用創出による若年層の活用にも課題が残った。
●政治的な問題について
雇用の創出不足などから一時のモディ・ブームが過ぎ去り、昨年末の3州での州議会選挙では与党が敗北、モディ政権には痛手となった。また、議会でヒンドゥー至上主義の動きも加速している。
4月11日から投票が始まり5月23日には結果が判明する総選挙があるが、前回の選挙で国民会議派によるバラマキで、与党BJPが負けたことから、今回はバラマキがエスカレートしている。与野党、いずれが第3勢力を取り込めるかが、勝敗の鍵を握ることになる。与党連合は苦戦が予想されていたが、2月のカシミールでのテロ事件後にやや盛り返した感がある。
●外交・安全保障について
モディ政権の外交は基本的に全方位外交で、これが功を奏している。米中、米露の関係悪化で、3カ国からのアプローチがあるほか、中東諸国との関係強化もテロ後の対パキスタン関係改善に繋がった。
対米関係はおおむね良好である。インドがロシア製の武器を購入したり、イランの原油を輸入したりしても、米国からの圧力を受けないのは、米国が対中戦略、対テロ戦略の中にインドを位置づけているからと見ることもできる。
対中関係は「政冷経熱」である。年々、中国からの製品輸入額は増加している。インドはAIIBの第2の出資国でありながら、一帯一路の会議には参加していない。これはCPECやドグラム高原などでの対立の他、インドのNSG(核提供グループ)加盟や国連におけるパキスタンのテロリスト指定に対して中国が拒否権を使用するなど、国際政治の場での確執も影響しているようだ。
対日関係は、特別戦略的グローバルパートナーシップの下、毎年の首脳会談や2+2などの枠組みが整備されていることに加え、新幹線計画など円借款によるインフラ整備も進み、きわめて良好な関係を維持している。ただし、インド側の期待の大きさが、日本からの投資拡大に直接結びつかない現状があり、軍事関連でもそれが見られることを指摘した。
【略歴】
近藤上級准教授は1961年生まれ。スタンフォード大学博士(開発経済学)。アジア開発銀行、世界銀行等にて勤務の後、1998年より国際基督教大学助教授、2007年より現職。2006 年よりインド経済研究所客員主任研究員、日印協会理事を兼任、2011年よりハーバード大学客員研究員。財務省「インド研究会」座長、日印合同研究会委員、国基研では客員研究員を務める。専門は開発経済、インド経済。主な著書に『現代インドを知るための60章』(共著、明石書店、2007)など。
(文責・国基研)