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2019.04.09 (火) 印刷する

ドイツの失敗に学んだ中国の原発政策 奈良林直(東京工業大学特任教授)

 「中国製造2025」の方針のもとに世界最強のメイドインチャイナの製造大国実現を目指す中国の原子力政策と米国の原子力・エネルギー政策について紹介したい。
 日本が再生可能エネルギーのお手本としてきたドイツの政策破綻は、2月28日の月例研究会でも紹介したが、その実態についてわが国のマスコミはほとんど報道しない。だが、同じくドイツを手本に、世界最大の太陽光発電と風力発電の国となった中国は、国内のCO2が減らないことに気が付き始めた。
 141GW、原発141基分もの太陽光発電が役に立たないことに気づいた中国は、太陽光パネルの大規模工場をいくつも閉鎖すると同時に、一気に原発推進に舵を切っている。200基を超える大型原発建設計画と143地点で暖房用の小型モジュール炉の建設を開始した。
 フランスのフラマトム社製の欧州型第3世代最新鋭原発(EPR)と米ウエスチングハウス(WH)が開発した静的安全系を有する3.5世代最新鋭原発AP1000のいずれもが世界に先駆けて2018年に中国で営業運転を開始している。

 ●最先端原発に挑戦する中国
 最初は技術移転の形で導入し、やがて自ら開発したものとして膨大な特許を出願して、自国の技術にしてしまう。これが中国のやり方である。
 5月に茨城県つくば市で開催される原子力工学国際会議には、世界から1000件の発表講演が予定されている。このうち実に800件が中国の発表だ。かつては論文の質も悪かったが、世界最先端の原発を営業運転に持っていくなかで、論文の質も急速に改善している。
 かくして、2025年にはすべての科学技術分野で世界の製造強国の仲間入りをするとした中国の「中国製造2025」が実現しつつある。わが国が廃炉にしてしまった高速増殖原型炉「もんじゅ」を上回る60万kWの高速炉の建設にも着手した。ロシアの高速炉の技術をもとに中国が設計し、わが国を含む欧米諸国がレビューを行った。
 トランプ大統領は、米国のエネルギー政策に原発の活用を据える検討を開始した。中国の再エネから原子力重視への政策転換に対応するためである。太陽光や風力などの変動再エネには、発電していないときの電力を火力で賄わなければならないという致命的な欠点がある。
 つまり、火力は再エネの補完として稼働しなければならないので、稼働率は安定せず採算は悪くなる。再エネの発電原価を安く据え置けるのは、電力を安定化するためのバッテリー、ダムの揚水、火力発電の負荷調整などのコストを負担していないからだ。
 ドイツの再エネ政策の破綻は、当然、米国政府も知っている。そこで米政府は発電単価の安い石炭火力と原発の優遇策の検討を開始した。

 ●AIに劣る日本の国会論戦
 電気代が高騰すれば、米国製品の国際競争力は落ち、雇用も悪化する。ニューヨーク州とイリノイ州では、原発によるCO2削減相当分に補助金を出すことにした。コネチカット州では再生エネ支援策を原発にも適用する。ペンシルバニア州では、超党派議員による原発支援策の検討が始まった。ネバダ州のユッカマウンテン放射性廃棄物処分場の建設再開に必要な予算もトランプ大統領が付けた。
 スパコンもデータセンターもAIも、そしてこれらによって制御される工場の生産設備や商品輸送の物流も、膨大な電力を必要とする。すべてがインターネットに接続されることで実現するIoT(物のインターネット)や工場の生産革命インダストリー4.0のスマート社会は、安定した安全かつ安価な電力が基本である。
 わが国の国会で、憲法改正は重要で優先的に取り組むべき政策である。同時に科学技術のイノベーションや、原発の安全対策・再エネなどのエネルギー政策も、国会で真剣に同時に議論すべきなのである。
 憲法改正と同時に他の重要政策も審議すれば、国会の論戦は憲法論議も含めて活発化し、野党も森友問題などで時間をつぶす余裕もなくなるのだ。できないなら、いっそのことAIに国会の議論を任せた方がマシだろう。