米国では、星条旗のもと、戦地で散っていった人々を一人残らず、国が責任をもって遺族のもとへ返す。米国防総省の捕虜・行方不明者調査局(DPAA)は、アメリカの遺骨収集の専門機関である。
人類学者、遺骨鑑定人などの各種スペシャリストをスタッフとして揃え、軍を動かし、数十名規模で現地に派遣して遺骨収集を行う。その場でアメリカの軍人・軍属であることが判明すれば、焼骨せずにそのまま持ち帰る。その後はアメリカの研究機関で最新の技術を用いてDNA鑑定し、身元が特定され次第、遺骨は遺族のもとへ返される。DPAAとして知り得た情報はすべて開示されている。
●態勢すべてで歴然の日米格差
一方、日本は、厚労省の担当職員をチーフに、派遣されるのは通訳者、民間人を含め5名から10名ほどだ。派遣されるメンバーは事前研修で、骨は大人か子供か、男か女か、アジア人か欧米人かなど、おおざっぱな特徴や獣骨との違いなどについて学ぶが、専門家のレベルには遠く及ばない。
鑑定人も可能な限り手配しているというが、専門家が足りていない状態だ。硫黄島では、自衛隊基地内の作業となることから、隊員が爆発物やガス探知などの処理作業とあわせて協力してくれるが、これは例外中の例外である。
海外では現地で何人か雇い、収集の手伝い、道案内、重機の手配などをお願いしている。調整がつけば、現地の元軍医や民俗学者が遺骨鑑定人として同行してくれる場合があるが、昨年3月、パプアニューギニアでの収集では、現地で雇った鑑定人が、実は専門外だったという事案もある。
このように、予算、人員、専門性、技術、そして志の面でも日米の差は歴然である。より専門性の高い遺骨鑑定人確保の必要性や、焼骨によるDNA消失の恐れについては、DPAAからも日本側へ幾度も忠告があったという。日米で密に連携を取りたいとの提案もされているが、その都度、厚生労働省は何かと理由をつけて拒んでいると聞く。
●過去の問題にしてはならず
平成26年10月24日、海上自衛隊の練習艦「かしま」がガダルカナル島で収容された遺骨137柱とともに東京・晴海埠頭に帰港した。それは海外で厚労省の遺骨収集団が収集した遺骨を自衛艦が持ち帰り、厳粛な式典の下、祖国に連れ返した初めての事例であった。静寂の中「海ゆかば」が流れ、遺骨が海上自衛隊員から厚労省職員へと引き継がれたときは、涙を禁じ得なかった。
だが、思えばそれは「戦後69年が経過するまで、自衛艦が海外の戦没者遺骨の帰還に協力することがかなわなかった」ということでもある。国家としては恥ずべき事態ではなかったか。
「国の責務」と明記された戦没者遺骨収集推進法の成立から早くも3年が経過した。遅々として進まぬ遺骨収集の現状に政府はしっかりと向き合う必要がある。厚労省だけでなく、外務省、防衛省の横のつながりを強化するのは当然として、DPAAとの技術協力も強力に進めるべきだ。
そして、あってはならぬことだが、今後、自衛隊員が外地で戦死した場合、遺体はどのように扱うのか。日本国旗に包まれ、丁重に扱われて日本の家族の元へ帰せるのか。遺骨収集は過去の問題ではない。
遺骨の取り違えはなぜ起こったか(上)
遺骨の取り違えはなぜ起こったか(下)