東京電力福島第1原発でたまり続けるトリチウム処理水について原田義昭前環境大臣が退任直前、「思い切って(海に)放出して希釈する他に選択肢はない」と発言したことについて、後任として初入閣したばかりの小泉進次郎大臣は、発言はあくまで原田氏の個人的な見解だとし、お詫びしたいと述べた。
小泉氏は就任後直ちに福島県の内堀雅雄知事や地元漁連関係者を訪ね、「福島の皆さんの気持ちを、これ以上傷つけるようなことがないような議論の進め方をしなければいけない」とひたすら低姿勢だった。小泉氏はまた、「誰かが言わないと新しい次元、ステージに上がっていかない。正しいと思うべきことを世の中に発信していかなければいけない」と言い訳したようだが、現状認識が甘い。
●口約束では地元の不安消せない
まずは小泉氏の大臣就任後の動静と発言を時系列で振り返りたい。
内閣改造から一夜明けた9月12日、環境省で原田前大臣から引き継ぎを受けた小泉氏は、今月下旬にニューヨークで開かれる国連総会で環境関連のイベントへの出席を早速検討していることを表明。その日のうちに福島県を訪れている。
17日にも再び福島を訪問し、大熊町や双葉町など4つの町を回った。いずれも福島第一原発事故の汚染土を保管する「中間貯蔵施設」を抱える地域でもある。
この汚染土であるが、政府は平成26年10月3日の閣議決定で中間貯蔵施設の安全確保などは国の責任で行うと明記し、使用開始から30年以内に県外での最終処分を完了させるとした。
ところが、その最終処分地は候補地すら決まっていない。地元ではが中間貯蔵施設が“事実上の最終処分場”になるのではないかと不安を募らせ、具体的な対応策を求めている。だが小泉大臣は「約束は守るためにあるもの。しっかり形にするために全力を尽くしたい」と述べるだけだった。
●希釈放出は個人的発言にあらず
26年10月3日の閣議決定では、有害物質のポリ塩化ビフェニール(PCB)を無害化する国の「日本環境安全事業」を「中間貯蔵・環境安全事業」に改め、中間貯蔵施設の整備や運営管理を担うこととした。県外での最終処分の法制化は、中間貯蔵施設の受け入れ条件として地元が強く求めていたものだ。
当時の望月義夫環境大臣は、同日の閣議後の記者会見で「(県外処分を)法律で規定することで、しっかりとやっていく」と述べたが、受け入れに応じる自治体は現れていない。筆者も9月に福島を訪問したが、膨大な汚染土を眺めながら、県外に運び出す困難さを改めて実感した。
さて希釈放出についての原田前大臣の発言であるが、これも小泉氏が言うような個人的発言ではない。原子力規制委員会の田中俊一前委員長も、更田豊志委員長も、海洋放出について東電の決断を促す発言をしてきている。
その流れを確認もせずに漁連に陳謝する小泉氏は、テレビで華々しくパフォーマンスを繰り広げているだけにしか見えない。具体的な解決策を持ったうえで発言しないと、思い付きで「最低でも県外」と表明して沖縄・普天間飛行場の返還問題を大混乱させた、どこかの“宇宙人首相”と同じ轍を踏みかねない。
●省エネ複合発電のススメ
筆者は、事故を免れた福島第1原発の5、6号機と第2原発の4基については、原子炉本体の廃炉とは別に、まだ使える蒸気タービンを活用して、コンバインドサイクル発電所にすべきと考えている。蒸気タービン1基だけで2000億円くらいのコスト削減になる。液化天然ガス(LNG)の燃焼で回すガスタービンと排熱回収ボイラーを設置し、既存の蒸気タービンを組み合わせた複合発電方式である。熱効率が高く、燃料の使用量が大幅に抑えられるほか、CO₂排出量も大幅に低減できる。
蒸気タービンには多量の海水を復水器に流す必要があるが、この海水にトリチウム水を微量混ぜて極限まで希釈するのだ。トリチウムは自然界に存在し、我々は日々食物とともに摂取している。極限まで希釈した濃度なら人体には影響がない。雇用も創出され、首都圏の電力不足も解消する。電力料金を低く設定できる復興特区にすれば、企業誘致も容易になる。
小泉大臣には、このくらいの対策は打ち出してほしい。さもないと「嘘つき」呼ばわりされるのは自分自身であり、首相の椅子など夢のまた夢になってしまう。