公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.09.26 (木) 印刷する

対中総力戦へ一体感強める米国 湯浅博(国基研企画委員兼主任研究員)

 中国は繁栄するにつれて周辺国を脅し、南シナ海の人工島を軍事化し、略奪的な貿易慣行などで国際規範を無視してきた。時にトランプ米大統領に心変わりがあったとしても、彼の政権や米議会はもはや、これら傲慢な覇権主義行動を許さず、米国民の対中認識は後戻りできそうにない。
 なかでも、クリストファー・フォード国務次官補が9月11日、中国の「地政学的な競争戦略」に対応して、各省、各局が政府全体で取り組んでいると表明したことがそれを示している。

 ●外交・安保の「最優先事項」
 フォード次官補はバージニア州のフォート・ベルヴォア陸軍基地で開催の「大国間競争に関する会議」で、トランプ政権が「中国による米国と同盟国に及ぼす安全保障面の挑戦に対処すべく“政府全体”として対処計画を策定中である」と明らかにした。
 局ごとの対中政策は次官補が調整し、省ごとの政策は副長官級の運営委員会が調整して実施する。フォード次官補によれば、米国政府は急に曲がれない大きなタンカーに例えられることがあるが、対中競争戦略に関しては、必要に応じて迅速に向きを変えることができると強調した。
 外交、安全保障に限ってみると、国防総省はエスパー国防長官が「最優先事項」に中国をあげ、情報収集と分析、そして大国間競争における協調行動をどうサポートできるかなどの対中戦略を具体的に積み上げているという。
 さらに国務省は、同盟国を標的とした民生用技術の盗み出しなどにも対応するため、担当部局ごとに優先順位をつけながら対応策を作成している。国防産業の基盤保護では、米国の軍事機器のサプライチェーン(供給網)が安全であることを確認し、軍事技術が中国向けに違法に搾取されていないかなどを厳重に管理する。

 ●「取引」と「闘争」の戦い
 このフォード発言が伝わると中国外務省の華春榮報道官は9月16日、「中国の内外政策に泥を塗り、これを歪曲し、中国の脅威を騒ぎ立てている」と猛反発している。さらに華報道官は、「中国が世界平和の建設者、世界の発展の貢献者、国際秩序の擁護者であることはすでに実証されている」と首をかしげたくなる言葉を並べた。
 習近平国家主席もまた、9月初めの中央党学校でのあいさつで、中国の夢を達成するうえでの障害に対しては、「断固たる闘争」を繰り広げると宣言した。習主席は米中貿易戦争には直接言及しなかったが、「闘争」という言葉を60回も多用して敵対的な姿勢を示した。
 この刺激的な政治レトリックは、文化大革命の中国政治を象徴しており、以来、封印されていたものを再び引っ張り出してきた印象だ。
 習主席は「共産党のリーダーシップと中国の社会主義システムを危険に晒すようなリスクや課題」に対して断固として戦うと誓約し、核心的利益で対外的に譲歩したり、統治モデルを変えたりすることはあり得ないと強調した。
 南洋工科大学の李明江教授は、トランプ大統領が対中政策で「取引の芸術」を駆使しているのに対し、習主席は共産党幹部の士気高揚を狙った「闘争の芸術」を使っているとみている。