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2019.11.20 (水) 印刷する

教師の「心の知能指数」育成が急務 髙橋史朗(国基研理事・麗澤大学大学院特任教授)

 マスコミが取り上げている教師のいじめは氷山の一角に過ぎない。学校という閉鎖社会の中での先輩・同僚教師からのパワハラ・モラハラ・セクハラは日常茶飯事である。私は10年以上、東京、埼玉、大阪、福岡で教師のリーダーを育てる師範塾の塾長、理事長として、教員研修に尽力してきたが、小学校の教員採用試験の競争倍率が限りなく1倍(全員合格)に近づきつつある今日、教員をめぐる状況の深刻さは目を覆うばかりである。

 ●EQ問われぬ採用に問題
 教員の働き方改革が進められているが、教員養成、教員研修の根本的改革を図らない限り、この問題は解決できないだろう。かつて東京の中野富士見中学校で起きた「葬式ごっこ」のいじめには教師も加担し、「さようなら」と書かれた色紙に教師も署名していたことが問題になったが、教師自身の感性、共感能力こそが問われている。
 私はかつて神奈川県教育委員会の学校不適応対策研究協議会で「学校に行けない子供たち」という冊子を作る専門部会長として、不登校といじめ問題についての教員研修を担当したが、多くの教員研修を通して痛感したことは、「情動知性(EI=Emotional Intelligence)」に欠ける教員が多いということであった。
 とりわけ教員のいじめ研修の際に行った「EQ(情動知能)診断テスト」によって、教員の「情動知性」が極めて低いことが明らかになった。教員採用試験ではIQ(知能指数)は問われるが、EQは問われない。
 「情動知性」は教育や学習、訓練などによって高めることができるため、世界中の企業内人材育成や教育の現場でEQを育成するプログラムが実施されているが、教員養成や教員研修には欠落している。

 ●「教養」より「修養」の研修を
 教育基本法第9条1項は、「教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」と定め、2項において、「その使命と職責の重要性にかんがみ、(中略)養成と研修の充実が図られなければならない」と明記されている。
 しかし、埼玉県教育委員長時代にも教員研修に「教養」に関する研修は多いが、「修養」に関わる研修は極めて少ないことを痛感させられた。「情動知性(心の知能指数)」を育む研修は「修養」を深める研修といえる。
 「情動知性」の3本柱は、感情の表現と命名、感情の理解と認識、感情の制御と調節であるが、これらの「情動と社会性」を育む心理教育プログラムを教員養成と教員研修に広げる必要がある。
 1980年頃から、アメリカでEIを育てる「社会性と情動の学習」(SEL)が始まったが、これを参考にしながら、EIの育成を重視する日本心理学会がリーダーシップを発揮して、我が国の教員養成・研修に応用することを提言したい。