公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.11.26 (火) 印刷する

6G開発で浮足立つなかれ 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)

 中国紙「科学技術日報」は11月7日、中国が次々世代通信技術「6G」の開発に向けた調査研究を公式に開始したと報じた。
 高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムですら、ようやく限定的な消費者向けサービス始まったばかりで、いかにも気が早い話に思えるが、米国でもトランプ大統領が5月に6Gに言及し、日本でも、政府が11月21日、「ポスト5G」基金を創設することを公表している。
 6Gで何ができるか、現時点ではまったく未知の領域だが、将来的には実現が確実な通信技術といわれている。いかなる先端技術もいずれ限界に突き当たることは必然で、市場を制するには、常に次代の技術開発を視野に入れておく必要がある。だが浮足立つことはない。

 ●サービス拡大が新技術求める
 通信速度が4Gの100倍以上とされる5G技術の普及は、2030年頃と予測されていたが、そのスピードは想定以上に早まっている印象だ。
 報道によれば、中国移動通信(チャイナモバイル)など中国の携帯電話大手3社は11月、5Gの消費者向けサービスを開始したという。5Gは韓国と米国の一部地域でもスマホ向けサービスが始まっている。
 こうした競争環境が激化する中で、通信速度が5Gのさらに10倍から100倍という6G開発に早期取り組み気運が出てくることは、むしろ当然のことだ。
 5Gが汎用技術として普及すれば、それに対応して様々なサービスが生まれ、多様な市場が生まれる。ところが、一方でサービスが拡大すれば、いずれ5Gで対応できることの限界も見えてくる。例えば、自動車の無人運転化が高度化すれば、その分、処理すべき情報量も膨大となり、いずれ5Gでは対応できなくなるだろう。

 ●新しい価値をどう生み出すか
 こうした状況に対して「日本は出遅れている」との批判があるが、日本の技術開発は本当に遅れているのだろうか。
 東京工業大学は2018年6月11日、NTTと共同でテラヘルツ波の周波数で動作する超高速IC(集積回路)を開発し、300ギガヘルツ帯で毎秒100ギガビットの無線伝送に成功したと発表した。6G技術の実現に向けた画期的な技術であり、日本の技術水準の高さを示すものだ。
 ただ、どれほど優れた技術でも、市場の需要を見誤れば一気に敗者に転じる。2011年までは世界最大の携帯電話端末メーカーであったフィンランドのノキアが、世界のトップシェアを握っていた故に、その後のスマホ開発に乗り遅れたことは記憶に新しい。2006年1月時点で世界最大のワイヤレス・インターネットプロバイダーだったNTTも、世界初の携帯電話IP接続サービス「iモード」を開発しながら世界標準にはできなかった。液晶事業で一世を風靡したシャープも韓国との価格競争で敗れた。こうした例は枚挙にいとまがない。
 重要なのは、技術を土台として、どのような新しい価値を生み出せるかだ。市場は次に何を求めているか(需要)をいかに敏感に読み取れるかである。正に、自由な競争市場の基本原理である。日本に必要とされるのは、アトムやドラえもんのような未来予測や構想力ではないだろうか。