西太平洋に展開する米原子力空母セオドア・ルーズベルトの乗員約4800名のうち300名が新型コロナウイルスに感染した。恐らく3月上旬にベトナムに寄港した際に乗員が上陸して感染したものと思われる。この実情を艦長が海軍上層部に訴えると共に、その写しをメディアにも送付したことから解任され、その解任した海軍長官代行も辞任した。
10日付の産経新聞によれば、米空母11隻中、4隻で感染者が出ており、米海軍の空母運用に深刻な影響を及ぼしつつあるという。また、フランスの原子力空母シャルル・ドゴールにも感染者が出て、母港帰還の予定を早めたとする報道もあった。中国は、これを機会とばかりに空母「遼寧」戦闘グループが沖縄・宮古水道を通過して太平洋に進出した。
確かに米海軍にとって空母数隻が運用困難な状態であることは大打撃だが、本当に怖いのは、グアム島を母港とする米原子力潜水艦4隻に感染者が出ていないかどうかである。
●隠密性が〝暴露〟の危機に
空母を始めとする水上艦艇に感染者が発生しても、航空機で基地に輸送、病院で手当が受けられる。しかし水上艦艇以上に密閉、密集、密接の三密状態にあるのが潜水艦だ。感染者が出ても、作戦上最大の利点である隠密性を暴露することから、浮上して患者を移送することが出来ない。
中国にとって、怖いのは米空母であることには間違いないが、人民解放軍は空母キラーと呼ばれる弾道ミサイルを多数保有している。これに対し、対潜能力が未熟な中国海軍では米原潜に太刀打ちできない。中国は米原潜が搭載するトマホーク巡航ミサイルによる打撃力が最も怖い筈である。
その原潜を米海軍はグアム島に4隻(2014年までは3隻であったが、西太平洋重視政策により「トピカ」が追加配備された)展開している。今回、数百人の感染者を出した空母セオドア・ルーズベルトと同じグアム島を母港としていることから、潜水艦乗組員に感染が波及しないか、それが最も心配である。
●米打撃力頼み、改めて再考の時
それでは一方的に米海軍が不利な状況に追い込まれているかといえば、そうとも言えない。理由は中国海軍艦艇にも新型コロナウイルス感染者が大量に発生しているに違いないからである。お互い様であるが、それが西側諸国のようにオープンになっていないだけの話だ。それに、空母はいなくても戦闘能力では「遼寧」を遥かに上回る強襲揚陸艦アメリカ(母港は佐世保)が艦載機F-35Bを20機弱搭載し、海自の護衛艦「あけぼの」と共に東シナ海に展開している。
怖いのは、中国が兵士の生命を度外視して作戦行動に踏み切る専制国家であることだ。その意味では北朝鮮も同じである。北朝鮮の軍内は、もっと酷い状況にあると推測される。医療体制が整っていない北朝鮮軍内にウイルスが蔓延すれば、作戦どころの騒ぎではない。今年になってから、北朝鮮が短距離弾道ミサイルを何回も発射しているのは、内外に軍の健在ぶりをアピールするためであると推測されている。
米軍の空母や原潜の打撃力に自国の安全保障を委ねている我が国にとっては、自国も打撃力を保有することを再考する良き機会であることには間違いない。