公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2020.04.16 (木) 印刷する

コロナ禍と中国の行方 津上俊哉(国問研客員研究員)

 中国は新型コロナウイルス感染症(以下では「コロナ禍」)対策の初動で情報隠蔽という大失態を犯したが、その後は苛烈なロックダウン(都市封鎖)で迅速に感染を封じ込めた(ようだ)。習近平政権は「次なる課題は経済の回復」と舵を切りたいところだが、話はそう簡単ではない。

 ●10%近い成長落ち込みも
 第一、苛烈なロックダウンは経済に深い傷を遺した。火元の武漢だけでなく、中国ほぼ全土の製造業、サービス業に深刻な影響を及ぼしたのだから、無理もない。4月17日には第1四半期のGDP成長率が発表される予定だが、官製発表値はさておき、中国の専門家でも前年同期比10%近い落ち込みだったと考える向きが少なくない。たとえ年後半に景気アクセルを踏み込んでも2009年のような「景気V字回復」を実現するのは容易ではない。
 第二、「勝利宣言」後も、帰国者から次々と新規感染者が見つかり、「第二波襲来」の不安が高まっている。世界中が感染を封じ込めないと、国際社会との経済的、人的往来は元に戻れない・・・そのことに思いが至って暗然とする中国人が増えている。
 ならば、外需に頼らずに経済成長率を回復させることはできるか。そのためには、またぞろ地方政府が借金をして利用効率の低い公共投資を増やす経済対策をやることになる。そうなると効率の悪い国有セクターをさらに肥大させるオマケまで付く。

 ●米中関係は一層修復困難に
 習近平政権は、経済以外でも難題を抱えている。
 感染情報の隠蔽は国内でも批判を浴びている。悪い情報を上に聞かせまいと隠蔽する体質は「党の指導」を押しつけてきた政権の体質が生んだ、言論を弾圧してばかりだったから事態の把握が遅れた、等々と。
 これに対して、政権はウイルスとの闘いを戦争に見立てて、「習近平の指導の下、戦争に勝利した」物語を謳い上げている。物心ついてから中国の発展と西側先進国の落日ばかり聞いて育ってきた若者世代は、意外やこの宣伝を肯定する者が少なくない。中国でも社会は分断が深刻化しているのだ。
 眼を国際面に転ずると、コロナ禍が米中関係、さらには国際関係にも不可逆的な変化をもたらしつつある。
 昨年末の米中貿易合意でひとまず休戦に入ったかに見えた米中両国だが、コロナ禍のせいで一層修復困難な不信と対立の関係に戻ってしまった。
 トランプ政権が中国の情報隠蔽を批判するのは良いが、初期判断を誤って感染を拡げてしまった政権の責任を転化する思惑は隠せない。一方の中国は「中国の警告を聴かなかったから、こういう目に遭うのだ」と嘲り、はては「ウイルスは米軍が持ち込んだのではないか」と言い出す始末だ(この発言はさすがに取り消され、共産党・国務院内部にも意見の対立があることを覗かせた)。

 ●中国の味方は意外に多い
 米中の低次元すぎる言い争いから痛切に感じ取ったことがある。ウイルスとの闘いにせよ、その後に続く世界経済の危機への対処にせよ、国際社会の団結と協力無しには乗り切れない真性の危機に世界が直面しているというのに、その音頭を取るリーダーはもはや居ないのだということだ。
 このコロナ禍は米国が国際秩序を支える覇権国の地位を降りた出来事として記憶されるだろう。
 その米国の後を襲える力と意思が中国にある訳ではない。「Gゼロ」(超大国不在)が言われる所以だ。しかし、世界には中国の味方が意外と多いことを過小評価すべきでない。コロナ禍を拡大させた罪科で世界中が中国を非難していると思い込むのも危険だ。他の国が人助けに回る余裕がない中、中国の支援を受けた国は感謝しているのだ。加えて、中国は責任問題に幕を引くためにも、いちはやくワクチンを開発して途上国に無償供与してまわるのではないか。
 トランプ政権の4年間で、米国が覇権国の責任をもう果たさない、果たせないことが明らかになってきた。その影響はもっと長い時間をかけてジワジワと世界に及ぶものだと思っていたが、コロナ禍は反応をぐっと促進する触媒の役割を果たしそうだ。