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2020.04.20 (月) 印刷する

コロナ対策で活用広がる次亜塩素酸水 奈良林直(東京工業大学特任教授)

 「今週の直言」や「ろんだん」で、次亜塩素酸水の利用を繰り返し提案しているが、国の積極的な利用がなかなか進展しない。「予防保全」の観点から感染の予防に力を入れる方が遙かに効果的であり、「事後保全」として発症した患者を医療により治療するのは大変で、医療従事者に大きな負担がかかることは明白である。医学おける予防保全は、ワクチンを開発することであるが、これには少なくとも1年以上の歳月と膨大な開発コストがかかる。

 ●国会でも政府に導入求める動き
 立憲民主党の早稲田夕季衆議院議員は3月31日付で提出した「次亜塩素酸水を手指の消毒に活用することに関する質問主意書」で政府に速やかな対応を求めている、内容は以下のようなものだ。
 「神奈川県大和市では、新型コロナウイルスの感染予防においてアルコール消毒液の代替になるとして、次亜塩素酸水の生成装置を購入し次亜塩素酸水を大量に製造して、市民に無料配布を始めた。アルコール消毒液の品不足解消が当面見込めないなかで、政府として次亜塩素酸水を手指の消毒に活用することの有効性や安全性を科学的に評価し、何らかの指針や技術的助言を、自治体や医療、介護、福祉の現場や動物病院等に対して早急に示すべきではないか」
 質問主意書は4月6日に内閣に送られたが、政府は10日の閣議で、「現時点では手指の消毒に活用することについての有効性が確認されていない」とする答弁書を決定した。
 極めて残念である。「ご指摘いただいた有効性を早急に確認し、コロナウイルス感染撲滅に全力を尽くす」というのがまともな閣議決定のはずだ。筆者は、この閣議決定のまずさこそ、国民の8割が政府の対応が遅いと感じている典型例だと思う。

 ●人体には、ほとんど悪影響なし
 当初、厚生労働省は、「咳やくしゃみに伴う飛沫感染が主原因」とする立場を取っていた。しかし、流体力学の専門家の立場からすれば、飛沫の大きさは目に見える約1ミリメートル程度の大きさだけではなく、その千分の一のマイクロメートルのサイズで広範に飛散することは常識であり、NHKも番組でマイクロ飛沫の存在をレーザで可視化して注意喚起していた。
 新型コロナウイルスのサイズは、さらにその十分の一の約100ナノメートルであるから、密閉空間での咳やくしゃみでは、少なくとも数千個のウイルスを含むミクロ爆弾が漂うことになるのだ。
 この大きさだとマスクも通過するので、吸い込めば直接感染し、室内のあらゆる物の表面に付着する。椅子の手すりも、衣類も、スマホの表面も付着する。それを触った手で口や鼻、目を触れば接触感染する。
 密接接客するお店に行けば、マスクをしていても接触感染し、ウイルスが付着した手でパンをちぎって食べればウイルスは簡単に体内に入る。多数の感染者がいればその人数に比例して確率は高くなる。これが「3密感染」の原因なのだ。
 SNSでは内科医が、「一面、ペンキ塗り立ての状態」と警告している。椅子に座れば、衣類と手にはウイルスのペンキが付着するということだ。廊下も待合室も診察室も、そして休憩室も。
 病院の院内感染も、そう考えればよく分る。フェイスマスク、ガウン、次亜塩素酸水消毒が三種の神器として必要だ。
 次亜塩素酸水は、白血球の一種である好中球がウイルスや細菌を殺す。しかし人体には、ほとんど悪影響を与えず、次亜塩素酸ナトリウムのように手洗い後に入念に洗い落とす必要がない。スプレーで吹き付ければ手指の殺菌になるし、歯科医院では口腔の消毒に使える。
 超音波加湿器に入れて噴霧すれば部屋いっぱいに広がり、ウイルスの付着した衣類、家具、カーテン、床などに沈着して除菌し、匂いの元を分解する。次亜塩素酸水については、たくさんの研究論文やウイルスの殺菌データがある。
 筆者が次亜塩素酸水の活用を提案し続けているのは、このためで、予防保全(ウイルスの消毒や除菌に)にも、事後保全(病院の治療の際の院内感染の防止)にも役立つからだ。

 ●自治体が先行して無料配布も
 筆者の元には、「全国の自治体でも神奈川県大和市、東京都練馬区、横須賀市、海老名市、加古川市、鹿嶋市、など全国の多くの自治体が続々と市民に次亜塩素酸水無料配布を始めています。政府がもたもたしているうちに、自治体や民間が自衛のために感染対策を先行させています」などといった報告がメールで届いている。
 ネットでも、「次亜塩素酸水」や「微弱酸性電解水」の活用例が多数紹介されている。また、「日本電解水協会」の会員企業からは、筆者の講演や著作活動の全てでウイルス殺菌データなどを使用できる許諾をいただいた。「pH(ペーハー)6.5で、15秒で完全殺菌」の証拠写真もある。
 遅まきながら4月15日、経済産業省が文献調査などの調査結果を踏まえて有識者による検討委員会を開催すると発表した。新型コロナウイルスに有効な可能性がある消毒方法として、「界面活性剤(台所用洗剤等)」や「第4級アンモニウム塩」とともに「次亜塩素酸水」を選定。今後、これらの消毒方法について、製品評価技術基盤機構において有効性の評価を実施するという。
 検討委員会の意見を聞きながら、代替ウイルスや実際の新型コロナウイルスを用いた実証試験等を行う。同省は「市販の消毒液が品薄な場合はこれらの品目でも代用可能で、検証試験の結果判明前に使用しても問題ない」と太鼓判を押している。全国の自治体や民間の草の根活動が経産省のお墨付きに結び付いた。
 早速、コンビニの店内で噴霧中の写真(北九州市小倉北区のセブンイレブン)が筆者のもとに届いた。次亜塩素酸水を無料で配布しているコンビニや、焼き肉店では「次亜塩素酸水スプレーボトル付きハラミ丼」などというメニューも登場した。福井県の歯科医院でも次亜塩素酸水の活用で院内感染を防いでいるという。他人を思いやる力強い「利他の知恵」が日本を救う。

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