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2020.07.16 (木) 印刷する

セクハラ疑惑のソウル市長自殺の背景 西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)

 韓国の朴元淳ソウル市長が7月10日、市内の山中で遺体として発見され、自殺と断定された。朴市長は8日までは、不動産価格の暴騰を抑制する問題で、長年の左派運動の同志である与党「共に民主党」の李海瓚代表と会談するなど通常に業務をこなしていた。

ところが、9日に市庁に出勤せず全ての日程をキャンセルしていた。夕方、同居していた娘が(妻とは別居中)、「父が遺言めいたことを残して市庁官舎を出た後、携帯電話もつながらない」として警察に失踪届を出し、大捜索の結果、10日の午前零時過ぎにソウル北部の山中で遺体が発見された。

左派陣営の座長的存在

報道などによると、朴市長は自分に仕えていた女性秘書に対して4年間もセクハラ行為を続け、耐えきれなくなった当該秘書が9日午後に朴市長を刑事告発していた。告発によれば、朴市長は携帯電話に自分の下着姿の写真やわいせつな文書を送りつけていたという。朴市長は女性への性的迫害を糾弾する急先鋒だったから、ひどい偽善者だったことになる。

朴市長は1993年、韓国で最初のセクハラ裁判で被害者弁護人を務めた。ソウル大学教授による助手へのセクハラ事件で、5年かけて勝訴し、女性の人権擁護団体から表彰されている。その後も、「子供が石をカエルに投げつけたとき、子供には何気ない行動でも、カエルの立場からすると取り返しのつかない大事件だ」などという比喩を使ってセクハラ事件では被害者の立場に立って考えよと主張し続けてきた。

慰安婦問題でも元慰安婦の立場に立てとして、激しく日本を攻撃してきた。つまり、女性の人権を守るということが、朴市長の原点だった。

朴市長はまた、「参与連帯」「美しい財団」などの左派市民運動組織を作って、大企業から多額の協賛金を集める名手だった。元韓国経済新聞主筆の鄭奎載氏は、自身が主宰するYouTube放送で、朴市長をよく知る関係者の話として次のように語っている。

朴市長は左派陣営を資金的に支えてきた座長的存在だった。朴市長から資金を出してもらって育成された左派運動活動家らは多い。ソウル市長になっても様々な委員会を作って左派弁護士や活動家に資金を回してきた。また、民主労総や挺対協など過激な左派組織に補助金を出してきた。朴槿恵前大統領弾劾のデモでも、ソウル市が電源や会場掃除などで全面的にバックアップした。朴市長本人は借家住まいで借金をしており、そのような清貧な生活をしていることを人々に知らせて満足する自意識の強い左派活動家だった。だから、セクハラで訴えられるというスキャンダルにはその強い自意識が耐えられなかったのだろう

現政権にも通じる偽善体質

しかし、その偽善ぶりは朴市長個人の資質だけの問題ではない。口汚く韓国の主流勢力を「積弊」として糾弾し、新しい世の中を作ると言って権力を握った現在の文在寅政権とそれを支える左派活動家全体に、その偽善体質は貫かれている。与党系の前忠清南道知事と前釜山市長がやはりセクハラで職を辞している。

安熙正・前忠清南道知事は女性秘書に複数回、性的暴行を加えたとして2018年に告発されて辞任し、実刑判決を受け現在は獄中にいる。今年4月には呉巨敦・前釜山市長も市職員へのセクハラ問題で辞任し、現在、警察の取り調べを受けている。日本でいうと、東京と大阪と愛知の首長がセクハラ事件を起こして、1人は実刑判決を受け、1人は容疑者となり、1人は自殺するという恥ずかしい状況だ。

彼らが学生運動時代に身につけた北朝鮮の主体思想は、革命の指導者は何をしても許されると教えている。また、スターリンは売春宿を経営して革命資金を調達し、レーニンを喜ばせたという。無神論に立つ共産主義思想では、自分は正義を体現していると盲信するので、指導者らには私生活を乱す例が多い。

ソウル市は朴市長の葬儀を「ソウル市葬」とした。被害者の感情を逆なでする「市葬」に対しては、50万以上の大統領府請願の反対署名が集まったが、ソウル市は「市葬」を強行した。

左派活動家らはネット上でも「刑事告発した元秘書を見つけ出して懲罰を加えよ」「李舜臣将軍も日記を見れば官奴(官庁に所属するキーセン)と寝たというが、それで李将軍をお祀りしてはならないのか」など、被害者を脅し、おとしめる書き込みをしている。

被告発人死亡で捜査は終了

被害女性は、セクハラを受けていた4年間に、何回か市の上司や知り合いの記者らに被害を訴えたというが、「市長はそのような方ではない。市長が気持ちよく仕事ができるようにするのが秘書の仕事」などと言われて、誰も味方になってくれなかったという。警察は告発された当人が死亡したので捜査を終わらせたと発表した。

左派勢力の、このような開き直りと2次被害に直面している被害女性は、弁護士と支援者を通じて次のような絶叫に近いコメントを発表している。

巨大な権力の前で、力のない弱い私自身を守るため、公正で平等な法の保護を受けたかった。安全な法廷であの方(朴市長)に向かってこんなことをしないでと叫びたかったです。いやですと泣き叫びたかったです。許したかったです。法治国家の大韓民国で法の審判を受け、人間らしい謝罪を受けたかったです多くの人を傷つけるかもしれないとの思いで、(コメントを出すことを)とても躊躇しました。しかし、(市葬に反対する大統領府への請願に署名した)50万人を超える国民の訴えを受けても変わらない現実は、あのとき感じた威力の大きさを再び感じ、息が詰まります

被害者を支える弁護士と支援者らに加えて野党と保守マスコミなどは、朴市長のセクハラの実態、複数いるとされる他の被害者、誰が捜査上の秘密である刑事告発を被告発人である市長にすぐに伝えたのか、なぜ被害者の上司への訴えが無視されたのか―などについて、真相究明と責任者処罰を求めている。ソウル市は調査をすると言っている。その結果を注視したい。