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2021.01.25 (月) 印刷する

米新政権は日韓問題で正確な理解を 有元隆志(産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人)

 バイデン米新政権は、北朝鮮の核兵器、弾道ミサイル開発に対抗するため、日本や韓国と連携し北朝鮮に対する「新戦略」を策定する方針を表明した。その際、足枷となるのが慰安婦問題や朝鮮人戦時労働者問題などをめぐる日韓の対立だ。その責任は国同士の正式合意を踏みにじってきた韓国政府にある。ただ、日本として警戒すべきは、オバマ政権の時のように新政権が「仲介役」として乗り出し、日韓に「新協定」の締結を働きかけることである。

サキ大統領報道官は22日の記者会見で、北朝鮮の核やミサイルを抑止することは米国や日本にとって「死活的な利益であり続ける」としたうえで、「米国はこれからも地域のパートナー諸国と今後の方策に関して密接に連携し、共に抑止に取り組んでいく」と強調した。

この方針に沿って米側は日米韓の協議を開催しようとするだろう。バイデン政権には国務長官に指名されたブリンケン氏をはじめオバマ政権の元高官も多いので、今一度、平成27(2015)年12月の慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を謳った日韓合意を思い出してほしい。

米国が後押しした慰安婦合意

この合意を後押ししたのは米国であり、日韓の対立解消の先頭に立っていたのがブリンケン国務副長官(当時)だった。ブリンケン氏は同年10月に訪韓した際の講演で慰安婦問題について「甚だしい人権侵害だ。対話を通じ(日韓)双方が同意できる恒久的な解決策が見いだされることを願う」と日韓関係の改善を促した。

この年の12月28日に合意が成立すると、米国はすぐにケリー国務長官名で「長年にわたる微妙な歴史問題に関し、日本および韓国政府が合意に達したとする本日の発表を歓迎する」との談話を発表した。翌年1月7日、安倍晋三首相がオバマ大統領に電話し、慰安婦問題での米側の理解と協力に感謝を伝えると、オバマ氏は「安倍総理の勇気と決断に敬意を表する。今回の決断により、日米韓の平和と安定のための協力が強化される」と語った。

安倍首相は国内の反対論にもかかわらず、米側の強い働きかけも考慮し、合意に踏み切った。この時、安倍首相はいずれ韓国が合意を破る事態も想定していた。日本側から率先して10億円も拠出し、あとは韓国側の国内問題にするとのねらいがあったが、はたして今日の事態は安倍氏が懸念していた通りになった。

「歴史蒸し返す」韓国に警戒を

日本側は、合意に至った経緯を熟知しているブリンケン氏らが文在寅政権に、あらためて合意履行に向けて働きかけてくれることを期待する。

もっとも、安心してはいられない。これまで何度となくゴールポストを動かしてきた韓国は、戦時労働者問題なども含めて「人権問題」と位置付けて、米側に働きかけ、新協定締結を求めてくるかもしれないからだ。米側も対北朝鮮、対中国において、日米韓3カ国との連携を図るため、韓国側の「人権問題」という主張に配慮し、再び日本側に譲歩を迫ってくるかもしれない。

日韓間にはこれ以外にも、朝鮮人戦時労働者問題で韓国最高裁が命じた日本企業の韓国内資産を売却する「現金化」問題、韓国海軍の駆逐艦による海上自衛隊P1哨戒機に対するレーダー照射事件、日本の対韓輸出管理強化への対抗措置として韓国側が打ち出した日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄問題がある。いずれも責任は韓国側にあるというのは米側も認識している。

知日だが親日でないキャンベル氏

日本政府内には新政権の高官で数少ないアジア通であるキャンベル・インド太平洋調整官の役割に期待する向きも多いが、キャンベル氏は「知日派ではあるが親日ではない」(同氏をよく知る日本政府高官)。

キャンベル氏は27年1月、自民党本部を訪れ、「日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会」の中曽根弘文委員長(元外相)らと会談した時も、慰安婦問題に対する国際社会の誤解を解消する方法を模索していた同委の動きに「刺激的なことは外に向かって言わないでほしい」、「歴史を蒸し返さないでほしい」と牽制した。

バイデン新政権下での日米韓の連携強化を図るためにも、キャンベル氏には今度は韓国に「歴史を蒸し返さないで」と説得してほしい。

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