公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.06.14 (月) 印刷する

国会と国防現場の緊張感に乖離 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 先週行われた菅義偉総理と野党党首による党首討論は、コロナやオリンピックに議論が集中し、安全保障問題を語る党首は居なかった。そうした中でも中国海警は頻繁に我が国固有の領土である尖閣諸島(沖縄県)の領海を侵犯し、台湾海峡での軍事的緊張も中国側の挑発行動によって日に日に高まっている。

米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官は、今後6年以内に中国が台湾に武力侵攻する可能性を上院軍事委員会の公聴会で述べたが、台湾有事は日本の有事でもある。米国のワクチンを台湾に譲渡する旨を伝えに、超党派の上院議員団が韓国から米空軍の大型輸送機で台湾を訪れたが、当然この輸送機には沖縄・嘉手納の在日米軍基地を飛び立った米戦闘機が護衛に当たったであろう。

「国民の命とオリンピックのどちらが大切か?」と主張するのであれば、コロナによる死者より遥かに多い数の死者が予測される安全保障をなおざりにして良い筈はない。

自衛官だけワクチン遅れ

6日の産経新聞によれば、自衛隊、海上保安庁、警察、外務省の担当者に米軍も加わり、尖閣有事を想定して頻繁に図上演習を都内の自衛隊施設で行っており、今年になって訓練の頻度は加速していると報じられている。また、これまで米沿岸警備隊との共同訓練を2018年以降実施していなかった海上保安庁も2月には小笠原諸島周辺で合同訓練を行った。

先月、陸上自衛隊は鹿児島県の霧島演習場でフランス陸軍、米海兵隊と共に離島防衛訓練を行ったが、米・仏軍の隊員は全員がワクチン接種を終えていたのに対し、自衛隊員は殆どが接種を終えていなかった。これで同盟・友好国と共に離島防衛ができる態勢になっていると言えるだろうか。

東京の大規模ワクチン接種場で警察と消防に対するワクチン接種を行ったとする報道はあったが、埋まらない予約枠に自衛隊員や海上保安官を充当しようとする程度である。明日にでも生起する可能性がある豪雨災害などで年老いた人達を背負って救出する自衛隊員がワクチンを接種していなくて良いのか。こんなところにも日本の平和ボケを感じる。

さらに4月の日米首脳会談で菅総理は防衛力をさらに強化する考えを表明したが、帰国後の国会答弁では具体的な構想を明確にしなかった。同盟国である米国は、これをどう受け止めているのだろうか。

予測される中国の妨害活動

11日の仏紙ルモンドによれば、仏海軍のトップであるピエール・バンディエ参謀総長は、先月、インド太平洋に派遣した強襲揚陸艦「トネール」とフリーゲート艦「シュルクーフ」が常に中国船に追尾され、衝突回避のための回避行動を取らざるを得なかったと述べた。

仏艦の2隻よりも、さらに大規模な英空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群がまもなくインド太平洋海域に入る。海上自衛隊との共同訓練が計画されているが、中国による航行妨害行動や情報収集活動が一段と強まるであろう事は疑いない。

国防現場での緊張感と、国会での討論の間には大きな乖離があると言わざるを得ない。