公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.08.23 (月) 印刷する

菅首相でいいのか 有元隆志(月刊正論発行人)

 8月22日投開票の横浜市長選は、立憲民主党が推薦する元横浜市立大学教授山中竹春氏が、菅義偉首相側近の小此木八郎前国家公安委員長を破って当選した。新型コロナウイルスの感染拡大が小此木氏には「逆風」となり、山中氏にとっては「追い風」となった。この流れが衆院選に引き継がれ、与党は大苦戦するとの予測が出ている。

これまで自民党は多少議席を減らしても、野党の支持率は低いので政権交代は起きないだろうと高をくくっていたが、このままでは民主党に政権を奪われた2009年の二の舞となることを肝に銘じるべきだ。

影響隠せぬ横浜市長選の敗北

横浜市長選が注目されたのは、菅首相が小此木氏を全面支援し深く関与したからだった。地元とはいえ、菅首相があくまで地方選であるとして距離を置けば打撃はここまで大きくはならなかったであろう。衆院議員の任期満了が目前に迫り、負けた時の影響は小さくないことは首相も十分認識していたはずである。

それが出来なかったのは地元であり、しかも小此木氏は菅首相が秘書として仕えた故小此木彦三郎氏の子息であり若い時からよく知っているとの私情もからんでいた。そこまで入れ込む以上、勝利は至上命題だったが、逆に敗北したことで首相の求心力は低下してしまった。

内閣支持率も30%を割る調査が出ており、「危険水域」に突入している。時事通信の調査では、2000年4月に発足した森喜朗内閣以降、小泉純一郎首相を除く8つの政権がこの危険水域に入ったが、このうち7人の首相は再浮上できないまま退陣している。

例外が安倍晋三首相で4年前に「森友・加計」問題で30%を割ったがすぐに回復し、10月の衆院選で大勝した。安倍氏のように岩盤支持層がないと「危険水域」に入ると回復するのは難しい。菅首相は劣勢を挽回できるだろうか。道のりは厳しい。自民党の支持者からも菅首相と二階俊博幹事長の交代を望む声が強まっている。

コロナ対応で強まる批判

菅首相の強みは官僚だけでなく多くの人と朝、昼、夜と会い、様々な意見に耳を傾け、政策に取り入れることだった。コロナ禍でそれもままならなくなった。そのうえ、最近首相と面会した人によると「諫言を聞きたくない雰囲気がある」という。休みも取らずコロナ対応に追われているなかではイライラが募るのもわかるが、そのような態度では人心は離れていくばかりである。

菅首相の持ち味は、安倍晋三前首相らとは違って国家観を前面に出すことはないものの、目の前にある難題に果敢に取り組むことである。4月の日米首脳共同声明での「台湾海峡の平和と安定」明記と防衛力強化の約束、原発処理水の海洋放出決定、日本学術会議会員任命の一部見送り、歴史教科書からのいわゆる「従軍慰安婦」記述の削除など、評価される点も少なくない。

ただ、コロナ対応では批判は強い。日本医科大学特任教授の松本尚氏が産経新聞「正論」(8月18日付)で主張したように「医療側への要請と国民の行動制限だけで感染拡大を乗り切ろうというのはあまりに策に乏し過ぎる。『盾と矛』を持って敵に立ち向かうように、治療薬の積極的認可・使用と病床の創出といった戦術を持つことが必要である」。

野党には国政任せられず

日本を取り巻く厳しい国際情勢の中で、政情が不安定になっていいのだろうか。野党第一党の立憲民主党の枝野幸男代表は8月15日の「終戦の日の談話」として、「自公政権は不当な憲法解釈変更による歯止めなき集団的自衛権の容認や、防衛費の際限なき膨張など、立憲主義、平和主義を脅かすような動きを強めており、このような流れを断ち切らなければなりません」と主張している。

しかも、立民は都議選や横浜市長選では日本共産党と連携した。衆院選でも両党の候補者調整が進むとみられる。共産は政権公約には日米安保条約破棄は盛り込まないとしているが、破棄を掲げている綱領は変えないとしている。自衛隊の段階的解消も変更せず、天皇陛下についても、「天皇の制度は、世襲にもとづく制度ですから、『人間の平等の原則』と両立しない、だから民主共和制の実現をはかるべきだ」(志位和夫委員長)との立場を示している。このような勢力に国の舵取りを委ねていいとはとうてい思えない。

いま日本に求められているのは自衛力の増強であり、敵に攻撃を断念させる攻撃能力を保有することだ。そして、日本の皇統を守るため、皇位の継承策などを検討する政府の有識者会議が議論の中間報告で、旧宮家の男系男子に現皇族と養子縁組して皇籍復帰してもらう案を打ち出したことを踏まえて、早急に実現することである。

やるべきことは決まっている。あとは実行力だけである。菅首相にできないならば、9月の自民党総裁選でこれらを実現する総裁を選ぶべきだろう。