「我々はアフガンに1兆ドル以上を使って彼らが必要とする全ての道具を提供したが、未来のために戦うという意志まで提供することはできなかった。アフガン軍が自ら戦おうとしない戦争で米軍が戦うこともできず、戦ってもいけない」。バイデン米大統領が8月16日にホワイトハウスで演説した内容だ。
島田洋一福井県立大教授は「アフガン政府軍が戦わずしてタリバンに降伏したという言い方は正確ではない。この5年間に約55000人のアフガン兵がタリバンとの戦闘で戦死している。最後の潰走は、ガニ大統領はじめ指導層が逃げ出したためである」と事実関係を正している。
島田教授の指摘を踏まえた上でも、私は米国主導の民主化の失敗を考えてしまう。そして、我々が今、人類の普遍的価値観として掲げている自由、民主主義、人権、法の支配が中東でも有効なのか、言い換えるとこれらの価値は本当に人類に普遍的なものと言えるのかという、文明論的な大問題にぶち当たらざるを得ない。
すでに民主化していた日本
ブッシュ大統領(子)は、中東での「テロとの戦い」を日本との戦争や朝鮮戦争などと重ねて、米軍の勝利によって日本や韓国の民主化が成功したように、イラクやアフガニスタンでも民主化は成功すると繰り返し語っていた。
「日本は宗教、文化的伝統を保ちつつ、世界最高の自由社会の一つとなった。日本は米国の敵から、最も強力な同盟国に変わった。我々は中東でも同じことができる。イラクで我々と戦う暴力的なイスラム過激派は、ナチスや大日本帝国や旧ソ連と同じように彼らの大義を確信している。彼らは同じ運命をたどることになる。民主主義の兵器庫にある最強の武器は、創造主によって人間の心に書き込まれた自由を求める欲求だ。我々の理想に忠実であり続ける限り、我々はイラクとアフガニスタンの過激主義者を打ち負かすだろう」(2007年8月22日、米カンザスシティーでの演説)
日本の民主化はすでに戦前から実現していたと考えるべきだが、西欧キリスト教文化圏に属さない日本が明治以降、文明化への必死の努力を続けて人類の普遍的価値を実現させていったことは間違いない。日本の文明化の歴史こそが西欧が先に実現した価値が、他の文化圏に対して非排他的、すなわち人類の普遍的価値であるということを実証したと言っても良い。
「自由は無償ではない」
韓国では米軍が4万人以上の死者を出しながら共産軍の侵略を排撃し、70年間米軍が自由を守るために駐屯してきた。その間、めざましい経済成長をとげ、政治的にも自由民主主義を実現した。ところが、自由な選挙の結果、米韓同盟よりも北朝鮮の世襲独裁政権と中国の全体主義体制に親和的な文在寅政権が成立した。朴槿恵前大統領弾劾と投獄のプロセスや、戦時労働者問題での大法院判決などは、普遍的価値の柱である法治に明白に反する。来年3月の大統領選挙で文大統領と同じ路線の大統領が選ばれれば、米韓同盟が破綻し「韓国軍が北朝鮮と戦う意志がない」ことを理由に米軍が撤退することもあり得る。
ソウルの戦争博物館には「Freedom is not free(自由は無償ではない)」という標語が掲げられている。普遍的価値観が真に普遍的になる条件は、受け入れる側の犠牲を伴う主体的努力だ。内容が普遍的価値観だからと言って、自動的にそれが世界に広がるのではない。中国共産党のファシズムと中東のテロ勢力が、わが国を含む世界の大部分の地域を支配下に置く最悪のシナリオもあり得る。人類が、むき出しの力が支配する野蛮を乗り越えられるかどうか、まだ勝負はついていない。