中国の習近平国家主席によるロシアの対独戦勝80周年式典など一連の行事出席は、米国が抱く「中露引き離し」へのかすかな期待を打ち砕いたと言える。トランプ米大統領には、プーチン露大統領との関係を修復すれば、ロシアを「北京封じ込め」のパートナーにできるとの淡い幻想があった。しかし、式典前に行われた中露首脳会談後の共同声明には、ウクライナの独立性を否定する「(ウクライナ戦争の)根本原因の除去」が盛り込まれ、式典では中国軍の兵士がパレードに参加して、ロシアの蛮行を後押しした。
共同で日本に歴史戦
中露が共に抱く野望は、自由主義的な国際秩序への挑戦であり、米国が共通の敵である限り、中露の「制限なしの協力」は崩れそうにない。中国とロシアは、それぞれ異なる秩序観であっても、米国の衰退、米国の同盟ネットワークの崩壊、民主主義の後退を目指す立場からは相互に利用できる。従って中露首脳は、今回の80周年式典を通じて「中露の協調と自己正当化」を内外に打ち出すことに狙いがあったと思われる。
習主席は事前にロシア政府発行の新聞に寄稿し、「国連憲章に基づく国際関係の規範を守らなければならない」などと、ルール破りが常習でありながら平然とうそぶいた。ロシアの侵略行為を容認しながら、国際規範の順守を説くとは笑止というほかない。
また共同声明では、日本にも非難の矛先を向け、「靖国神社や歴史上の出来事に関する言動に慎重を期し、軍国主義から完全に決別すべきだ」と主張している。現役の軍国主義的独裁国家が、ドイツと日本の過去を呼び起こして自己正当化を図っている。
中国は、南シナ海の大半を領海とする「9段線」の主張が国際仲裁裁判所で全面否定されてもこれを無視し、沖縄県の尖閣諸島への圧力を根拠なく強める。他方、ロシアの身勝手は、日本の北方領土を不法占拠していることであり、プーチン大統領自身はウクライナの幼児誘拐の容疑で国際司法裁判所から逮捕状が出ている。
2人の侵略者が、国連憲章を賛美する姿はグロテスクというほかない。
逆キッシンジャー
第1期のトランプ政権は、ロシアとの和解によって中国を孤立させる戦略を描いていた。米ニュースサイト、デーリー・ビーストによると、キッシンジャー元米国務長官は生前、トランプ大統領の側近らに、モスクワとの緊密な関係を利用して北京を封じ込める戦略を示唆していたという。
1970年代にニクソン政権が中国をソ連から引き離したように、今回は、ロシアを中国から引き離すことを狙うことから「逆キッシンジャー」戦略と称される。しかし、当時の中国とソ連は、1969年に国境紛争を繰り広げ、ニクソン政権はその亀裂を利用して、「中国カード」でソ連を封じ込めた。中国の毛沢東にとっては、「近くの蛮族」と対抗するため、米国という「遠い蛮族」を利用したにすぎない。しかし、現在の習主席は「遠くの蛮族」と対抗するため、「近くの蛮族」であるロシアを利用しているつもりなのではないか。
必要な米同盟国の連携
ジョンズ・ホプキンズ大学のハル・ブランズ教授は、今はむしろ、中露枢軸を構築すれば「コストが最大化」するよう手立てを考えるべきだと主張する。二つの侵略国が「接近すればするほど互いに窮地に陥る」よう仕向けよというのだ。戦略的な敵対国である中国に対しては、ロシアとの関係を理由に制裁と懲罰を科すことになる。
こうした戦略の展開には、冷戦時代の対ソ封じ込めがそうだったように、時間と忍耐と同盟国との連携強化が必須であろう。大国間の取引外交を好むトランプ大統領が、この現実を直視できるかはなお不透明である。(了)