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2021.09.24 (金) 印刷する

「中国の左旋回 何が起きているのか」 津上俊哉・国問研客員研究員

9月24日、国基研企画委員会は、ゲストスピーカーとして、現代中国研究家の津上俊哉氏を招いた。前回(2020年9月)の意見交換では米中関係にについて論じたが、今回は「中国の左旋回」と題して、中国国内で一体何が起きているのかについて語り、櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。

【概要】
最近の中国では経済面と社会面に大きな変化が起きている。

中国経済の変化は、経済政策の「左旋回」現象である。まず、プラットフォーマー(GAFAに並ぶIT基盤の事業者)を締めあげるということが行われている。たとえば、アリババに高額の罰金を科すなど、独禁法の適用を強化している。あるいは滴滴(DiDi)の上場に際し新規顧客募集停止などの処分を行い、株価を半減させた。さらに教育産業に対しては、非営利化で上場教育企業に打撃を与え、潰そうとしているようにさえ映る。このような強引な手法により、中国株は時価総額で1兆ドルが吹き飛んでいる。

その背景には、大手プラットフォーマーが絶大な権力を持つことへの党の焦りが見え隠れする。貧富の格差を解消するという党是に反し、彼らが国有企業より富み栄える様は、許容できないのである。

そのような流れの中、習近平の「共同富裕」論が注目された。8月17日の中央財経委員会での発言で共同富裕を説明。例えば、共同富裕は全国民の富裕で…高額所得を合理的に規制し、違法所得を非合法化する…高所得者層や企業には社会への還元を奨励する、などという。

この発言後、中国IT企業は争うように寄付を発表。例えば、Tiktokは5億元を地方政府に寄付、アリババは1000億元を農村向け医療保険などに投資、テンセントは1000億元を社会的援助プロジェクトに投入と発表した。

統制強化は経済政策に限られず社会全般に及んでいる。例えば、学校教育カリキュラムにおいて、共産党史や習近平思想が必修化された。あるいは、不良文化を広めるオンラインゲームやエンターテインメントの規制、党や国家に忠誠を示さない芸能人の排除など、その幅は拡大している。

潮目が変わったのは2020年で、米中対立とコロナ禍が中国のムードを一変させた。その年、コロナ禍に見舞われた14億人民は良く耐えて、中国は他国に比し最も防疫で成功したと確信している。にもかかわらず、西側諸国の評価は香港・ウイグルの人権問題や米中対立で極めて低い。このように悪意で中国を叩こうとする西側に対する反感が、集団同調圧力として人民に鬱積し、また、非エリートの党組織末端が保守的大衆の代表となり、金持ち叩きをする習近平に拍手喝采、熱烈支持する状況を生起している。党指導層はこれを好機と捉え、大衆の支持を重視した結果、社会統制を強化することで左旋回しているのである。

ただし、このような習近平の左巻き「共同富裕」政策は、結局は成功しないと考える。つまり、不動産バブルを放置し、隠れた政府保証という慣行によってゾンビ企業と不良債権が生き残ると、中国経済のバブル崩壊という問題は本質的には解決されないからだ。

中国は「大きな振り子」のような国で、いつ右旋回するかは判然としないが、いずれにしても継続して注視する必要がある。

【略歴】
津上氏は1957年生まれ。1980年東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。中国日本大使館参事官、通商産業局北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員を歴任。2004年、東亜キャピタル社長、2012年から津上工作室の代表を務め、日本国際問題研究所客員研究員の肩書を持ち、「本業、趣味とも中国屋」という現代中国研究家。著書に、『中国台頭』(サントリー学芸賞受賞)、『中国台頭の終焉』、『「米中経済戦争」の内実を読み解く』など多数。
(文責国基研)