ケビン・メア元米国務省東アジア・太平洋局日本部長は、6月14日、日本滞在の折、国基研を訪れ、ゲストスピーカーとして日米関係について語り、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換をした。
【概要】
現在の国際情勢を見ると、米国とアジアの安全保障にとって歴史的に重要なタイミングが到来したようだ。ロシアがウクライナを侵略するなど、当初誰もが予想できなかった。中国が台湾を併呑するのがいつになるかは誰もが予想できない。
ウクライナと台湾はいくつかの点で異なる。米国が軍事物資を提供する方法は、ウクライナは陸路が主で、台湾は海路が主となる。そもそも台湾が島である限り主要な戦域は海という事実は不変である。ならば、日本の最西端の与那国島から台湾まで110キロという近さを与件とすれば、自ずと日本が台湾危機と無縁であるわけはないと結論できる。
最近の世論調査でも、台湾危機に対する日本国民の関心は高く、自衛隊への信頼度も高い。かつては沖縄本島に護衛艦が接岸することさえできなかったが、今では与那国島には自衛隊の駐屯地があり、掃海艇も寄港可能だ。
仮に中国が台湾に侵攻するとしたら、事前に機雷で台湾を封鎖する可能性がある。機雷封鎖は国際法上戦争行為であり当然米軍も対応することになる。その際、沖縄本島などの在日米軍基地から部隊が出撃するわけで日本も蚊帳の外ではいられない。
今年の年末には重要な防衛3文書(安保戦略、大綱、中期防)が改訂されるだろう。防衛費を大幅に増額する方針は大いに評価できる。ただし、最も重要な点は、いかに政策や計画を速やかに実行に移すかだ。どんなに素晴らしい計画であっても、実行できない、あるいは遅々として進まないとなれば、絵に描いた餅でしかない。
日本の自衛隊が長距離打撃力(反撃能力)を持つことに反対する米国民はいないだろうし、むしろ歓迎するはずだ。第2次安倍政権時に日本は重大な決断をした。集団的自衛権の行使を一部可能にしたことだ。国務省や国防省の一部で日本の本気度に疑念を抱いていた雰囲気が、これにより一変したのである。いまや、日米は一緒に戦うパートナーとなった。
日本はスピード感をもって戦力の充実をはかるべきだ。正面装備だけでなく、人員、兵站、輸送、医療、研究開発など課題は山積する。待ったなし、時間との競争だという認識を持つことを期待する。
【略歴】
1954年、サウスカロライナ州フローレンス出身。ラグレインジ大学、ハワイ大学大学院卒。1981年にジョージア大学ロースクールで法務博士号(JD)を取得し、半年間の弁護士事務所勤務を経て、国務省に入省。駐日アメリカ大使館安全保障部副部長や沖縄総領事等を経て、米国務省東アジア・太平洋局日本部長を歴任。駐日期間19年に及び日米間の強固な関係構築に努めてきた対日政策のエキスパート。現在は民間コンサルティング会社の上級顧問。著書に『決断できない日本』(文春新書、2011年)などがある。 (文責 国基研)