9月30日、矢板明夫・産経新聞台北支局長が国基研企画委員会にてゲストスピーカーとして報告し、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換をした。矢板氏は駐在する台湾から一時帰国し、現場の視点で海峡危機などについて語った。
講話の概要は以下の通り。
【概要】
台湾有事とは何か。実は「台湾有事」という言葉は日本からの外来語で、自国の有事ということに意識が乏しいのが実態だという。蔡英文政権は危機を煽らない方針で、国民が不安になりパニックに陥ることの方がリスクは高いという判断だ。台湾国内には静かな緊張感が継続する状態だという。
米国のペロシ下院議長が8月に訪台し、その翌日に中国からミサイルが周辺海域に撃ち込まれた。日本では大きな騒ぎとなったが、逆に台湾では蔡英文総統が美食展に出席するなど、いたって平静を装った。
台湾問題という言葉もあるが、台湾に問題があるのではなく、中国の統一願望が問題なのである。鄧小平時代には平和統一が中共政府の方針だったが、習近平時代になると武力統一が一つの選択肢となった。ただし、米国の国内世論が圧倒的に台湾支持というこの時期は、中国にとって良いタイミングではない。
それでは中国が台湾を統一するため行動を起こすタイミングとは。それは、短期決戦で勝てる実力を持った時、米国が介入しないという確証を持った時、台湾内に内乱が発生した時などや、加えて習近平の判断ミスが重なるというのがタイミングになるだろう。
今回、ペロシ下院議長の訪台で、海峡危機が騒がれたが、96年の海峡危機とは大きく事情が異なっている。前回は米第7艦隊が派遣され、中国側が大人しくなったが、今回は台湾東側にまで演習海域を広げ恫喝してきた。今回の米空母ロナルド・レーガンの派遣は効果が薄かった。強気に出る中国に対し、これまで台湾に関心のなかった外国が台湾支持に回ったことは、中国にとってマイナスとなったと台湾は見ている。
さて、日本の対応はどうか。日台の安全保障上の直接の対話ルートがいまだない。韓国でさえ、現役の軍人が駐台しているというのに。台湾は非常に残念に思っており、至急改善すべきであると考える。
今後注目すべき政治日程は、10月16日の共産党大会、11月26日の台湾統一地方選がある。特に、共産党大会で習近平自身の肩書がどうなるか。毛沢東と同じ党主席になるのか。李克強の進退や、その後任がどうなるか。今後も緊張する海峡を挟んで、両国の動きから目が離せない状況が続く。
【略歴】
1972年中国天津市生まれ。残留孤児2世として1988年15歳のときに帰国、1997年慶應義塾大学文学部卒、松下政経塾、中国社会科学院大学院を経て2002年産経新聞入社。2007年4月から2016年11月まで中国総局記者として中国に駐在したのち外信部次長、2020年4月から台北支局長。主な著書に『米中激突と日本の進路』(共著、海竜社)、『中国人民解放軍2050年の野望』(ワニブックス)、『習近平の悲劇』(産経新聞出版)など多数。
文責:国基研