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2022.10.17 (月) 印刷する

海保予算を法改正なしに防衛費に含めるな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

先月、鈴木俊一財務相は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防費と同様に、海上保安庁予算など安全保障に関連する経費を幅広く防衛費に算入することに含みを持たせる発言をした。今月13日のBSフジのプライムニュースでも、岸田文雄首相はそれを是認するような発言を行った。

NATO加盟国が沿岸警備隊のような軍隊以外の武力組織の予算を国防費に含める際、その武装組織は「軍事訓練を受け、軍事力として装備され、軍事展開時に軍の指揮下で運用可能である範囲に限る」と定められている。

しかるに日本の海上保安庁法25条では「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と規定されている。

したがって、海上保安庁の予算を防衛費に含めるのであれば、この25条を撤廃する必要があろう。

日本弱体化のためだった海保法25条

戦後、日本がまだ独立していない1948年に海上保安庁が創立された時、この25条を挿入するように強硬に主張したのは、連合国軍総司令部(GHQ)の諮問機関である対日理事会のソ連代表デレビヤンコ政治中将であった。その理由は日本を弱体化させるためであった。

当時のソ連は領海12カイリを主張していたが、「海は皆のもの」という考え方の海洋国家日本は3カイリを主張していた。当時の日本漁船はソ連の領海内でも操業したいが、ソ連国境警備隊は、それを取り締まろうとする。そこで大湊(青森県)を母港とする4隻の駆逐艦から成る旧帝国海軍の第一駆逐隊が日本漁船を護衛した。ソ連としては、その苦い経験から、新たに創立される海上保安庁に軍としての機能を持たせたくなかったのである。

この生い立ちから海上保安庁は、海上自衛隊や米海軍、そして米国では陸、海、空、海兵隊に次ぐ第5軍として位置付けられている沿岸警備隊とは、装備体系、燃料、階級章まで異なり、共用性がない。

本年5月に行われた日米首脳会談の共同声明には「日米の海上保安庁当局間の協力」がうたわれているが、25条がある限り協力は極めて限定的なものにならざるを得ない。

先に準軍事組織と認めよ

海上保安庁巡視船の機銃口径は13〜40ミリであるが、海自、米海軍、沿岸警備隊は20ミリ多銃身機銃を主に用いている。海保巡視船のエンジンはディーゼルを主に用いているため使用燃料はA重油と軽油であるのに対し、海自、米海軍、沿岸警備隊の主要艦はLM2500ガスタービンとディーゼル・エンジンの組み合わせである。したがって、燃料や弾薬が不足した場合、海自、米海軍、沿岸警備隊の間ではお互いに融通できるが、海保とはそれができない。

決定的なのは、海自、米海軍、沿岸警備隊が同じ指揮・管制・通信・コンピューターシステムを使用して、データーリンクで連結されているために、リアルタイムの戦術図が共有されているのに対し、海保の巡視船は、そのネットワークに入れないことである。

階級章に関しても、海保には「中尉」である太線1本と細線1本の階級章がないため、それ以上のポストでは、階級章だけ見ると海自、米海軍、沿岸警備隊よりも一ランク偉いように見られる。

海保の予算を防衛費に含めるのであれば、海上保安庁法25条を撤廃して、列国の沿岸警備隊と同様に、準軍事組織としてからの話であると思う。(了)
 
 

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