国基研企画委員の田村秀男・産経新聞特別記者は10月21日、国家基本問題研究所企画委員会で、現下の経済情勢について語り、その後櫻井理事長をはじめ他の企画委員と意見交換しました。その後、田村氏は、『国基研チャンネル』にも出演してサマリーを解説しました。こちらも下記【概要】と併せてご視聴いただければ幸いです。
【概要】
中國共産党大会が終了すると習近平政権が3期目に入る。今月下旬の1中全会で最高指導部が選出されるが、盤石と言えるのか。
共産党大会活動報告を読み解く
党大会初日に活動報告があり、習近平氏は経済政策を取り上げ、ゼロコロナの成果と共同富裕(所得の再分配)を主張したが、内需拡大の見込みがない中で、絵空事になる恐れは否定できない。また、高い基準で社会主義市場経済を構築する方針は、市場に対し党の支配を強化する中では、却って改革開放路線に逆行し矛盾を呈することになった。さらに台湾問題で武力解決を放棄せずという警句は、実は国内向け常套句でしかなく、米国議会の対中強硬論を意識すれば逆に軍事侵攻のトーンを弱めざるを得ないだろう。
中国経済の実態
足元の中国経済の実態は、なかなかつかみづらい。なぜなら中国の経済データに信用が置けないからだ。特に最近は成長鈍化を隠す傾向にある。実際、党大会の期間中にGDPなど経済統計の公表を取りやめた。16日の活動報告でも成長の数値目標を示せなかった。経済政策に疑問を呈した著名なアナリストの中にはSNSのアカウントを凍結された人もいる。
ただし、中国経済の動向は中国発の数値自体に信用はないものの、補助手段を利用し変化率を捉え、トレンドを追うことは可能である。
日本のメディアは円安に目を奪われているが、実は人民元も下落している。同様に外貨準備にしても人民元の下落と同時に縮小している。その結果、量的緩和政策もとれず打つ手に困惑している。
不動産で行き詰まる経済は半導体で生き返るか
これまで中国経済の成長は不動産開発投資に引っ張られてきたが、今年になって前年比大幅減となり、GDPも同様に伸びなくなった。不動産開発投資とともに住宅価格も低迷してきた。家計消費より固定資産消費に偏重してきた中国経済に大きな打撃となっている。
輸出入にしても対米依存がいまだに大きく、半導体製造装置の輸入は増大し続けている。だが、米商務省は10月7日、中国向け最先端半導体や製造装置の輸出の認可制を発表した。対する中国は今後、半導体工場を中国国内に31か所建設する計画だが、日韓台欧などが米に同調する可能性もあり予断を許さない状況だ。
また、米議会の金融制裁法案の行方により、世界の金融資産の3割を持つ中国銀行の資産が焦げ付き、世界の金融市場に大きなダメージになる可能性がある。抑止力としては強いが、実際に抜けるかというと難しい伝家の宝刀であろう。
決断すべきはわが国経済界
今年の全人代の成長率目標は5.5%だったが、これを達成できる見込みはない。成長のエンジンも見当たらない。ハイテク国産化を成長の牽引車にして共同富裕とうたうが具体的な解決策が見えない。中国経済に深くコミットする日本の経済界には、いまだ警戒心が薄いように見える。
国力が間違いなく低下しつつある習近平政権の今後の経済対策は、継続して注視する必要がある。
(文責 国基研)
第242回 チャイナリスクに鈍感な日本。国会も国民も速やかに覚醒せよ
中国共産党大会では異例の習近平3期目。しかし足元の経済政策では失敗続き。それを挽回するための台湾カード。他方、日本の経済界は中国コミットを継続。米国が台湾有事抑止に動く中、チャイナリスクに鈍感な日本。国会も国民も速やかに覚醒せよ。