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2023.04.25 (火) 印刷する

日本学術会議の唯我独尊 唐木英明(東京大学名誉教授・日本学術会議元副会長)

岸田文雄首相は日本学術会議会員の選出方法を改善するための法案提出を先送りした。学術会議の激しい反対に配慮したものだ。学術会議は政府機関で会員は特別職国家公務員であり、定員210名、任期6年で3年ごとに半数を改選する。法案成立が遅れるため、今年予定される改選は批判のある現行方式のまま行われる。

ストップした自己改革

会員の選出方法はこれまでに何度も変わった。当初は科学者による選挙だったが、左派勢力の選挙運動により偏った選出が行われると批判された。そこで学会が会員を推薦する方式に変更され、会長など有力者が会員になった。会員が科学研究費補助金審査員の推薦権を握っていたこともあり、この方式は学会のボス支配を強化するだけという批判が沸き上がった。そこで海外の科学アカデミーに倣って会員が次の会員を推薦する現在の方式に変更された。ところがこれは選出過程の不透明性と説明責任の不在が批判された。それが菅義偉前首相による一部会員の任命拒否につながったと考える。

改革の必要性を学術会議も認識し、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けてQ&A」という2021年の文書で、選考方式は変えないがプロセスを透明化し、候補者推薦は外部の協力を得ること、国の機関以外の設置形態として特殊法人は考える余地があることなど、自己改革をさらに進めるとした。ところが改革の機運は続かなかった。

会員に求められる「高い識見」

今回の政府案は、会員が会員候補を選考する方式は維持し、これを第三者の有識者5人でつくる「選考諮問委員会」に諮問する案であり、諮問委員は学術会議会長が内閣府「総合科学技術・イノベーション会議」(議長・岸田首相)有識者議員や日本学士院長と協議するとしている。学術会議の要求に配慮しつつ透明性を確保するにはこれしかない。

元会員として筆者が最も重要と考える政府案の改正点は、会員に求められる資質として、現在の「優れた研究又は業績がある科学者」であることに加えて、「多様な分野の科学に関する知見を総合的に活用して科学、行政、産業及び国民生活の諸課題に取り組むための広い経験と高い識見を有する者」とする点である。二つの資質を兼ね備えない会員の存在が政府との対立の背景にあることを実感してきたからだ。

他方、自民党「学術会議に関するプロジェクトチーム」が提言した、国から独立して民間法人に移行する案は採用しなかった。学術会議への大きな譲歩である。

理解得られない外部意見の拒否

ところがこの政府案に対して学術会議は激しい反対運動を展開した。総会では「独立性が脅かされる」「政府の介入を許す」などの反対論が相次いだだけでなく、法案提出の中止を求める「勧告」まで出した。「勧告」とは「科学的な事柄について、政府に対して実現を強く勧めるもの」であり、2000年以降2件しか出されていない学術会議の伝家の宝刀である。我を通すためにこの重大な勧告権を使ったことは驚き以外の何物でもない。

さらに理解できないのは「米英独仏アカデミー調査」という文書で、日本の学術会議だけが国の機関であることについて歴史的経緯を反映したものとして是認していることだ。筆者は学術会議国際担当副会長として各国アカデミーとの連絡業務に携わった経験から、各国政府が会員選考に関与しないのはアカデミーが民間機関だからという簡単明瞭な理由であると理解している。

国の機関であることに固執しながら外部の意見を入れることを拒否する学術会議の態度は唯我独尊にしか見えず、国民の理解を得られるとは考えられない。(了)