公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2023.07.27 (木) 印刷する

最高裁トイレ訴訟判決めぐる問題点 松浦大悟(元参院議員)

体は男性、心は女性の経済産業省トランスジェンダー職員が女子トイレを使用させてほしいと要求したところ、勤務するフロアから2階以上離れた女子トイレの使用しか認められず、人事院に処遇の改善を求めたものの退けられたため国を訴えていた裁判で、最高裁はトイレの使用制限をした国の対応は違法だとの判決を出した。

この訴訟は個別事案であり、直ちに公共施設全体に適用されるものではないという補足意見は付いたが、既に名古屋市、千葉県、茨城県などでは「今回の判決を踏まえた対応をしていきたい」と担当者が取材に答えている。これは考えてみれば当然であり、同様の訴えを起こされれば最高裁まで戦っても負けることが証明されたわけで、瞬時にコスト計算をするのが行政職員の内在論理だ。さて、この案件について筆者が考える三つの問題点を指摘したい。

(1)裁判官はLGBT活動家から事前研修を受けていた?

最高裁の戸倉三郎長官は今年の憲法記念日における記者会見で、最高裁判事にLGBTなど性的少数者に関する研修を受けさせる旨を述べている。異例にも今回の判決文には5人の判事全員による意見が付されており、その内容が「まるでLGBT活動家のようだ」と一般のLGBT当事者からもいぶかしがられている。いったい誰の研修を受けたのか、国民は知る権利がある。国会議員はぜひ最高裁に対するヒアリングを実施してほしい。

(2)3分診療で入手できる性同一性障害の診断書 

原告の経産省職員は性同一性障害の診断書を持っており、健康上の理由から性別適合手術を受けることはできないが、長年にわたり女性ホルモンを投与されているので、女性への性的欲望はないとのことだった。だが、この職員のツイッターのアカウントを見ると、ギラギラした男性目線の性的表現のオンパレードだ。

実は、性同一性障害の診断書は簡単に入手できる。本来なら時間をかけて診察しなければならないのだが、たった1日で診断書を書いてくれる医者が何人もいて、インターネットではどのような受け答えをすればスムーズにいくかのマニュアルも出回っている。「性自認は自己判断だからダメだが性同一性は厳格な審査基準があるので女性の安全を脅かさない」というのは、現場を知らない者のれ言にすぎない。

(3)実態が先行している浴場・トイレ利用

戸籍とは違う性別の浴場やトイレを利用する是非について、「自分たちはトランスジェンダーを差別しているのではない。犯罪者との見分けがつかないことを問題にしているのだ」といった議論をよく聞く。だがそれは本質からずれている。真の問題は、トランスジェンダーの当人たちが既にそうした場所に入っているという事実だ。

LGBTへの差別解消を目指すNPO法人「東京レインボープライド」共同代表の杉山文野氏は自らのツイッターで、男湯に入って歌舞伎役者の市川海老蔵氏と遭遇したことを報告している。胸を切除しているが子宮は摘出していない杉山氏は、戸籍上は女性だ。LGBT理解増進法施行に伴い、厚生労働省は「公衆浴場の男女別は身体的特徴で判断を」と通知を出したが、日本で一番有名なLGBT活動家である杉山氏を警察は逮捕できるだろうか。そんなことをすれば国際的スキャンダルとなるに違いない。杉山氏は信念の下に男湯や男子トイレを使っているのであり、今後もやめることはない。

もちろん、体は男性のトランス女性が女湯に入っていることもよく知られた事実だ。

現在、最高裁大法廷では性同一性障害特例法が課す性別適合手術の違憲審査が行われていて、年内には自己申告だけで戸籍の性別変更が認められる可能性は高い。性別の定義変更という重大問題を、一部の司法エリートだけで決めていいはずがない。(了)