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2023.07.24 (月) 印刷する

英の高温ガス炉開発と日本の国際貢献 奈良林直(東京工業大学特任教授)

英国は、脱炭素の切り札として原子力利用の政策を鮮明にし、中でも高温ガス炉に着目して、「新型モジュール炉(AMR)研究開発・実証プログラム」を進め、2030年代初頭までに高温ガス炉の実証炉の運転開始を目指している。

日本原子力研究開発機構(JAEA)と英国国立原子力研究所(NNL)のチームが、英国の高温ガス炉実証炉プログラムの基本設計を行う事業者として採択されたことが、7月19日に報じられた。

世界で活用される日本の原子力技術

筆者は昨年5月、国際原子力機関(IAEA)が開催した小型モジュール炉(SMR)開発の規格と基準に関する技術会議にオンラインで参加し、我が国の軽水炉の設計規格、維持規格、そして高速炉など新型炉の技術について講演した。世界は現在、25カ国以上が200基におよぶSMRの開発にしのぎを削る時代に突入している。開発競争で優位に立つカギを握るのは、革新技術が実証済みであるか、それらのデータに基づく規格・基準があるかどうか、である。

講演の反響は大きく、IAEAの責任者から早速、我が国の関係組織の責任者とキーパーソンの名前、そしてそれらの技術紹介の内諾を得てほしいと言われ、すぐにメールで日本機械学会長、同学会標準委員長、規格づくりを主導したJAEAのキーパーソンの了解を得て、会議の最終日、IAEAに日本の規格を提供することに同意を得た旨を発表した。その中には、高温ガス炉の設計技術と高速炉「もんじゅ」の設計規格も含まれる。世界の革新炉開発に対する我が国の国際貢献である。

費用対効果に優れた高温ガス炉

脱炭素のため原子力が活用できるのは、電力分野に留まらない。我が国のエネルギー供給の約26%が電力として供給され、残りの74%が、自動車、航空機、船舶の燃料や、製鉄、製紙、機械部品、食品、化学製品など各産業の熱源に使われる。

電力分野より産業分野の方が脱炭素のハードルは高い。日本製鉄のある製鉄所を例に取ると、製鉄の熱源を石炭から水素に代えるには、100万キロワット級の原発7基を建設して、その電力で水を電気分解して水素を製造することが必要になると言われている。もちろん、太陽光パネルの電気を使っても良いのだが、高温ガス炉なら、高温のヘリウムガスで作動するため熱効率が高く、コスト的に有利になる。さらに高温の熱で水を熱分解し水素を製造する方法も高温ガス炉に付設した実験装置で確認されており、革新的な水素製造技術に取り組むこともできる。

我が国では、昨年8月に岸田文雄首相が「原子力の最大限の活用」を宣言し、約半年かけて経産省が主催した国のGX(グリーントランスフォーメーション)会議で、SMRや革新炉の開発の方向が議論され、今年度は既に高速炉と高温ガス炉の開発のフィージビリティースタディー(実現可能性調査)に重点投資が行われることになった。調査の主体がJAEAで、我が国の主要メーカーもこれに協力する。

世界の潮流は原子力の活用

筆者は先月、米シャーロットで開催された第10回先進原子炉サミットに出席し、世界の革新炉やSMRのメーカーの社長やCEO(最高経営責任者)、CTO(技術統括責任者)がそれぞれの開発した炉や発電システムの特徴についてプレゼンテーションを行い、パネル討論をするのを自分の目に焼き付けた。その後カナダ、ドイツ、フランスを回った。

世界が大きく原子力活用に舵を切った中で、ドイツの原子力関係者だけが悲嘆に暮れていた。国民の50%以上が原子力の存続を望む中で、ショルツ首相が緑の党の主張を入れて、メルケル前首相以来の方針である脱原発を強行したからだ。

一方で、2022年12月に公表した国基研のエネルギー問題研究会の政策提言が実際に我が国のエネルギー政策の随所に取り入れられていることも実感している。国基研の関係各位のご支援に深謝したい。(了)