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2024.09.24 (火) 印刷する

「非軍」でクアッドの海保相互運用に対応できるのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

21日に米デラウエア州で日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の首脳会議が開かれ、中国を念頭に海洋安全保障協力の強化で一致し、共同声明では海上保安機関が相互運用性を向上させることがうたわれた。

米豪印3カ国の海上保安機関(沿岸警備隊)が全て準軍事組織であるのに対し、日本の海上保安庁のみが海上保安庁法25条で非軍事組織と定められており、3カ国の沿岸警備隊と有効に相互運用性を向上させられるのか疑問だ。

米豪印の沿岸警備隊は準軍事組織

米国の沿岸警備隊は、陸軍、海軍、空軍、海兵隊、宇宙軍と共に6軍の一部を構成する。また、筆者が米国防大学に留学していた時の同期生にインド沿岸警備隊の准将がいたが、彼は常にインド海軍と自称しており、制服も海軍と変わりがなかった。オーストラリアの沿岸警備隊も2013年の法改正で、機材の提供はオーストラリア海軍参謀長が統合作戦司令部を通じて融通しており、海保法25条が規定しているような「非軍」の組織ではない。

したがって米豪印の沿岸警備船は、共通の指揮・統制・通信・情報機器によりリアルタイムで共通の作戦図が共有されるのに対し、海保巡視船はそうしたネットワークに入っていけない。米沿岸警備艇と海保巡視船を相互に人員交換させる構想が報道されているが、相互運用性が向上するかのように見えても、実態は異なる。第一、制服の階級章からして異なるのである。

海保巡視船は商船仕様

日本からフィリピンに円借款により供与された巡視船が、中国海警の体当たりで船体に穴を開けられた写真が先ごろ公表された。中国海警船は海軍艦艇を使用しているので、当然、軍の仕様である。しかし、海保の巡視船は、「非軍」メンタリティーにより商船仕様である。

軍艦の場合、今回の中国海警の意図的な衝突のような敵対行動に備え、船体に穴が開いても被害が拡大しないように、艦内を小さく区画化して防水ハッチで区切るという防水措置を施している。防火に関しても同様の措置が講じられている。

さらに巡視船は30〜40ミリ機関砲を搭載しているが、遠隔操作が機能しない場合に備えて、少なくとも砲塔周りの外板は軍艦のような耐弾構造にすべきであろう。

現在、尖閣諸島周辺海域で、海保が中国海警船の侵入を有効に抑えているかのように見えるが、それは平時であって、一度衝突を含む小競り合いや銃撃戦が起これば、商船仕様の巡視船は軍艦仕様の海警船にひとたまりもないことを日本国民は知らされていない。(了)