公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

  • HOME
  • 国基研ろんだん
  • 米中関係の基礎に「尊重」追加の意味は何か 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
2026.09.28 (月) 印刷する

米中関係の基礎に「尊重」追加の意味は何か 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)

9月の米中首脳会談の結果で私が注目したのは、両国の新たな関係を表現するものとして前回5月の会談で中国が提案し、米国が受け入れた「建設的な戦略的安定関係」の条件に「尊重」という言葉が追加されたことだ。米中関係で「尊重」と言えば、中国が主張する「核心的利益の尊重」がすぐに思い浮かぶ。中国が「核心的利益のうちの核心」と位置付ける台湾問題で、トランプ米大統領が中国の利益を尊重するとの言質を取られた可能性が否定できないのだ。

核心的利益の尊重?

ホワイトハウスがトランプ大統領と習近平中国国家主席による首脳会談翌日の9月25日に発表したファクトシートは「両国は尊重、公平さ、相互主義を基礎とする建設的な戦略的安定関係を築くことで合意した」とうたった。中国国営新華社通信も、8項目の会談成果の1番目に同一の文章を掲げている。

5月の会談後のホワイトハウス発表では「公平さと相互主義を基礎とする」とあったものの「尊重」は入っていなかった。当時、中国が「建設的な戦略的安定関係」の構築で一致したと大々的に宣伝したのに対し、米国は貿易の公平さと経済的な相互主義を安定した関係を築く条件にした、という解釈が有力だった。

今回、「尊重」の追加が注目されるのは、王毅中国外相が5月の会談後のメディア向け説明で、米中関係が恒久的に安定するには、「互いの社会制度と発展の道の尊重」「相手の核心的利益と重大な懸念の尊重」「それぞれの発展の権利の尊重」がカギを握る、と「尊重」を繰り返し米国に要求していたからだ。

互いの違いの尊重?

「尊重」が追加された意味を米中両国とも説明していない。新華社によると、習主席は25日にトランプ大統領の案内でワシントンの米国立公文書館を視察した際、「中米は歴史と文化、社会制度、発展の道筋は異なるが、互いの違いを認めて尊重し、違いを適切に管理すれば、中米関係は安定と持続的発展を享受することになる」と述べた。ここで習氏が求めているのは「歴史と文化、社会制度、発展の道筋に違いがあることの尊重」である。王毅発言にあった「核心的利益の尊重」が抜け落ちているのに気付く。

別の意味付けとしては、米国は対等な大国としての中国の地位を尊重するという意味でこの言葉を追加したのだとトランプ政権が説明する可能性もある。確かにトランプ大統領はワシントン郊外の米空軍基地に自ら出向き、習主席の到着を迎えるという破格の扱いをし、習主席を対等な大国の指導者として厚遇した。

米の台湾政策変更への不安

「尊重」の本当の意味は、米国の今後の政策や、それに対する中国の反応を見ないと分からない。少なくとも表に出た情報では、米国が中国の核心的利益を尊重し、台湾政策を変更した兆しは今のところうかがえない。ホワイトハウスのファクトシートは、戦後の米軍の前方展開が「自由で開かれたインド太平洋」を守り、米国の繁栄に貢献したと強調しており、これを見る限り、日本列島、台湾、フィリピンをつなぐ第1列島線から米軍が後退しそうな雰囲気はない。

その一方で、米国による総額140億ドルの台湾向け武器売却は、トランプ大統領が最終承認を先送りし、宙ぶらりんの状態が続いている。トランプ大統領の台湾政策の曖昧さに、不安は解消されない(了)