最近、韓国と米国で、ロシアからの戦争特需により北朝鮮経済が回復したという説が拡散している。それに対して、最近まで北朝鮮にいた亡命外交官と兵士、今も北朝鮮内部の肉親と連絡をとっている脱北者が、体験を踏まえて反論している。北朝鮮経済の実態を知る良い資料なので、その証言を紹介する。
平壌のマンション住民は練炭生活
(1)元外交官・李日奎氏(2023年まで在キューバ北朝鮮大使館参事官)の反論
北朝鮮経済が良くなったという見方は間違いだ。生活実態を見ていない。
平壌や一部大都市の金持ちは良い暮らしをしている。それ以外の田舎の住民は電気、水道のない非文明的生活をしている。
平壌の高層マンションでも電気、水、ガスを自由に使えない。最近、北朝鮮経済が回復したとして金正恩の肝いりで作ったピカピカの高層マンショの映像がよく出る。だが、その高層マンションで、電気は停電があるため1日4~5時間しか使えない。水道は2時間しか利用できない。マンションの地下のポンプで水道の水を上の階に供給しているからだ。だから住民は、水道が出る時間に水をタンクにためて使う。暖房のセントラルヒーティング・システムは昔あったが、壊れている。それで各世帯で練炭を燃やしてお湯を沸かし、それをパイプで床に通して暖房をする。都市ガスはなくプロパンガスだが、幹部以外は供給がないので、多数の平壌市民は練炭を使って炊事している。これが平壌の高層マンション生活だ。
最高幹部が住む蒼川通りのマンションでは、金正恩の執務室がこの地区にあるという理由で練炭を焚くことが禁止されているため、冬は幹部と家族が布団にくるまりガタガタ震えていた。その話が金正恩に伝わり、1世帯の1部屋だけセントラルヒーティングの暖房を入れることになった。その部屋に全家族が集まって生活するが、それも夜11時になると停電のため止まり、寒い冬の夜を過ごす。幹部らの執務室はエアコンがあって冷房、暖房が入るが、自宅はその有様だ。平壌でもこのような生活をしているのに、経済が回復したとは言えない。
ロシアは多額の外貨を提供する経済力がない。金正恩もそれを分かった上で、ロシアからは最新兵器や軍事技術をもらうことを優先にしている。戦死者の家族のうち、政権への反感がないものを選んで平壌への居住や大学進学などで優遇しているが、現金の給付はない。
訓練の実弾射撃、年に3発だけ
(2)元兵士・姜ミングン氏(2024年8月に軍事境界線から徒歩で韓国に亡命)の反論
自分は、金剛山近くの江原道高城郡の前方部隊で9年間勤務し、除隊間近になって徒歩で休戦ラインを越えて脱北した。
脱北の動機は、希望が見えなかったし、除隊後の未来が見えなかったからだ。北朝鮮で暮らすことは死ぬより辛い。
労働党入党は放棄した。金正恩が2024年、軍隊内での入党定員を大幅に減らした。入党した退役軍人が食えなくて多くの犯罪に走った。そのため、社会生活をして検証を受けた後に入党させる方針に転換した。一つの中隊に兵士が70~80人が所属するが、過去には30~40%が入党できたのに、現在は1人か2人しか入党できない。
軍に10年間服務したら、米10キロを自宅に送ってくれる。それ以外は何ももらえない。職場配置も、賄賂を渡せば良い職場か、そうでなければ苦労する職場に回される。自分は賄賂を準備する金がないから希望が持てない。自分は前方部隊に勤務したから退役時、大学に行けるが、金がないと卒業できないので諦めた。
徒歩で脱北する時、北朝鮮軍には見つからなかった。警戒が緩い。韓国軍は警戒をしっかりしているのですぐに見つかった。地雷が怖かった。自分の部隊は前線まで10キロ離れていたので、事前に地雷の位置を調べることができなかった。
高城郡の住民は燃やす物がなくて寒い夜を過ごしている。1日1食も取れない者も多かった。飢えで倒れる人もいた。コロナ前もひどかったが、コロナ後がもっとひどくなった。保衛員(政治警察である国家保衛部の要員。今年3月に国家情報局に改編されたので今は情報員と呼ばれている)が飢えで絶望して銃で自殺した。老人が2歳の孫を殺して食べたと聞いた。海岸地域住民はむしろ魚を食えない。賄賂を渡して魚を釣り、捕まえたら自分では食べず米などを買うため売るからだ。
軍隊にいる時、韓国のラジオ放送を聞いていた。中国製の小さい中古カセットレコーダーをチャンマダン(市場)で買ったら、それにラジオが付いていた。短波も聞くことができて、自由北韓放送(脱北者が運営する短波ラジオ放送)を聞いていた。北朝鮮兵士は韓国に良いイメージを持っている。韓国ドラマを多数見ている。脱北者が北朝鮮の家族に送金していることを知っている。送金できるのだから、韓国に行けば飢え死にしないことが分かる。テレビで米韓軍事演習のニュースが流れると、軍服、装備を見て北朝鮮のそれとの違いに驚く。
韓流ドラマは一般社会より軍隊内でより一層流行している。将校・下士官とその家族、保衛局の要員が一般人よりも見ている。皆がドラマ見ているのだが、金がない者だけが捕まる。自分の部隊で2023年に兵士1人が韓国ドラマを見た罪で見せしめとして捕まった。彼は党員になっており、軍服務期間をわずか数ヶ月残すだけだった。公開裁判で弁護士も検事と一緒に被告を責め、無期懲役が宣告された。皆が内心、彼に同情した。数年の懲役かと思っていたからだ。
韓国に来て、すべて新世界だった。地獄から天国に来た気持ちだ。住民福祉に驚いた。全ての施設に消化器、非常ベル、障害者トイレがあることに驚いた。北朝鮮では障害者はピョンシン(病身)だと蔑視される。北朝鮮の男は障害者の女と出会うとつばを吐き、今日は運が悪いと悪態をつく。
兵士は1年に3発だけ実弾射撃の訓練をする。訓練は真剣でなく、教育時間を埋めるという印象で、実戦を意識したものではなかった。図上訓練、格闘技、水泳が多い。水泳に力を入れる理由は、「朝鮮戦争の洛東江戦闘で泳げなくて戦死した者が多かったからだ」と説明された。
軍では木炭車を多く使っている。2003年、2004年に中国から5トントラック東風号を輸入して改造した木炭車だ。木炭を焚いてガスを作り、エンジンのピストンを動かす。木炭を後ろに積むので、積める荷物が半分になる。平地で時速20キロ、30キロしか出ない。坂道を上るのは大変だった。同乗している助手は、車体が下がらないように三角止め木をタイヤに当てて後ろから押す。
戦車、装甲車、ガソリン車は有事にだけ使う。キャタピラーやタイヤが痛むので通常は地面につけず、10センチくらい隙間を空けて保管する。3年に1回、エンジンをかけてみるだけだ。
戦争になれば北朝鮮は必ず負ける。相手にならない。装備も違うし、兵士も食べられないので体格も悪い。だから、北朝鮮兵士は戦争になったら核を使えば良いと考えている。
ウクライナでの北朝鮮兵士の自爆は仕方ないと考える。自分もウクライナに行けばやると思う。幼いときから洗脳されている。軍隊の服務信条6条に「軍人の一般任務:軍人は敵の捕虜に絶対になってはならない」と明記されている。ドラマや映画でも、捕虜にならずに自爆した兵士が英雄とされている。朝鮮戦争での巨済島捕虜収容所出身者は、孫の世代まで蔑視、差別されている
2024年、自分の部隊でもロシアへ派遣される兵士の募集をした。自分も行きたかった。行けば飢えはしないはずだから、腹いっぱい食べてみたいと思った。そして、もし自爆して死んでも、家族の生活に良い変化が起きるはずだと考えた。
部隊ではいつも空腹だった。食事の規定では米7、雑穀3の割合だが、実態は米1、雑穀9だった。韓国に来て防弾服を初めて見た。北朝鮮前方部隊でも見たことがない。
大雨で軍部隊に被害が出たら責任者が処罰される。雨が降ったら舗装されていない道路が遮断され、住民と兵士が動員されて復旧作業をする。ネパールの洪水のテレビ画面を見ると、道路などは北朝鮮より良い。北朝鮮で災害が起きたら、遺体の発掘はしない。現場を捨てて、別の場所に新しい家を建てる
地方では餓死と凍死が心配
(3)自由北韓放送代表・李始瀛氏の反論
(2026年12月、拉致問題国際セミナー講演)
支払いもきちんとはしていませんが、北韓(北朝鮮)住民の平均月給は2万ウォンから4万5000ウォンの間です。ところが、チャンマダンでは米1キロの価格が2万ウォンだといいます。
私が脱北した2012年には米1キロの価格が4000~4500ウォン程度で、当時の月給は3000~5000ウォン程度でした。
(参考:2026年8月の平壌の物価はもっと上がっている。白米1キロ5万7000〜6万ウォン、トウモロコシ1万8000〜2万2000ウォン、ガソリン1リットル4万8000〜5万4000ウォン、軽油1リットル4万6000〜5万2000ウォン。外貨交換レートは1ドル=6万8000〜7万2000ウォン、1人民元=9800〜1万ウォン)
コメの価格は急騰し、その上、チャンマダンにコメは流通せず、北韓住民は生活が苦しく、死にそうだと訴えています。2025年、北韓住民は健康に良いから雑穀を食べるのではなく、白米が高くて買えないので雑穀のお粥を食べています。この間、故郷にいる親戚と電話で話したのですが、脂のある物を食べられず、人々が目もまともに動かせないと言っていました。私は冗談かと思いましたが、劣悪な北韓の現実を物語る生々しい表現でした。
両江道新坡郡(現・金貞淑郡)から内部消息筋が伝えてきたところでは、今年(2025年)の9月か10月頃、新坡郡で餓死者が発生したが、中央に報告せずに静かに処理するようと指示を受けたということです。
地方に住んでいる人たちは山に行くと薪がたくさん取れると思っていたのですが、今は山に行っても木がないので、冬に凍え死ぬ心配をしています。平壌市民も真冬をどう過ごすか心配が多いということです。
平壌市の場合、冬になると暖房が効かず、家の中で水が凍りつくほどの寒さの中で暮らしています。もちろん夜はダウンジャケットを着て寝ますし、停電のためヒーターの使用も困難です。それでもお金のある家はアパートを改造して部屋一つに暖房管を設置し、冬に家族全員がその一部屋で寝なければなりません。暖房管というのはベランダで練炭を焚いてお湯を沸かし、そのお湯をパイプで床に回す温水暖房です。自分たちで工事をして、一部屋だけにそれを設置します。セントラルヒーティングからはお湯が出ないので、効きません。ベランダにかまどを作り、練炭を燃やしてお湯も使い、そのお湯で暖房もしています
両江道の住民たちは大多数がコメのご飯を長い間食べていないと話しています。 中国国境が新型コロナウイルス感染症の流行以降、統制されて閉じられたため、個人の密輸がほとんど消え、国境地域は洗濯に出てくる女性たちの姿さえ消えて、草が生い茂っています。
中国の商品が主だった北韓のチャンマダンも、国境が統制され、密輸が止まってからは流通がうまくいかず、市場には新しい服もないということです。 お金があっても物がなくて購入できないと娘が電話で言うのを聞いて、脱北者の母は号泣しています。
新しい服を買って着ることができた時代から長い時間が経ち、チャンマダンでは中古衣類を販売する商人が増えました。チャンマダンで、軍人たちが着ていた冬の軍服も中古で売られているのですが、軍に行った息子を心配して母親たちはその中古軍服を購入して軍服務中の息子に送ってやるのです。
最近、国境地域で飢え死にする人が増えています。「苦難の行軍」(1990年代の大規模な食糧危機)の時期でも、国境地域では餓死者はあまり発生しませんでした。ところが最近は国境地域でも餓死者が発生するそうです。比較的豊かな国境地域がそんな状況なら、内陸地域ではより多くの人が餓死していると言っても過言ではないでしょう。
両江道は今年特に寒いそうです。食べ物が足りない状況で燃料を用意しなければならない冬は、2つの恐怖が押し寄せてきます。夏は食べる心配さえすればよいのですが、冬は凍え死ぬ心配もしなければならないと北韓住民は話しています。(了)




