公益財団法人 国家基本問題研究所
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2026.10.30 (金) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次報告会

10月30日、今月の総合安全保障プロジェクト月次報告会を開催した。

まず中川真紀・国基研研究員が、岩田清文・国基研副理事長による「台湾の重要性」に関するレポートを踏まえ、前回の「日本にとっての台湾の重要性」という視点を変え、今回は「中国にとっての台湾の軍事的価値と日本への影響」として検討した結果を発表。続いて、岩田副理事長が「なぜ習近平氏は台湾統一にこれほど執念を燃やすのか」と題して報告した。

第1部は国会議員、第2部は主要メディアを対象として実施し、参加した議員、記者、企画委員らとの間で活発な質疑応答が行われた。以下にその発表概要を紹介する。

【月次報告】
国会議員向け(午前8時~9時30分)、メディア向け(午前11時30分~午後1時)

『中国にとっての台湾の軍事的価値と日本への影響』
 中川真紀・国基研研究員

・中国にとっての台湾の重要性
前回の報告においては、「日本にとっての台湾の重要性」について言及した。その中で強調したのは、台湾海峡は日本の輸入約30%、輸出約25%が通過し、台湾半導体への高い依存度などの現状や、台湾が仮に占領された場合、与那国島がわが国防衛の最前線となることなど、わが国経済や安全保障にとって極めて重要な結節点という認識を持つ必要がある。

今回は、中国からの視点で台湾の重要性を検討した。中国共産党にと って台湾は、2022年の党規約に「独立に断固反対して祖国統一の大業を完成する」とあり、また「普遍的歴史的任務」とも位置付けられる。

政治的には、共産党の統治の正統性を証明し、少数民族(新疆、チベット等)による「独立ドミノ」の防波堤とする狙いがある。さらに、米国の信頼性を低下させ、米国主導の国際秩序を中国式に変更するための足掛かりにする意図も伺える。経済的には、台湾の半導体産業クラスターを掌握することで、米中間にある技術ギャップを縮小させる狙いがある。軍事的には、第一列島線まで防衛ラインを拡張して西太平洋への自由なアクセスを獲得し、列島線という「鎖の中央の環」を握ることで、南シナ海の聖域化を確実にする目的がある。

すなわち、中国共産党が存続する限り台湾統一は義務であり、「平和統一」されれば、共産党独裁の安定と米国を凌駕する能力を同時に獲得できるのである。

・中国の台湾政策
第二次大戦以前から続いている共産党と国民党の対立は、大戦終結時の日本軍武装解除に端を発して激化し、内戦に突入した。この対立は1949年の中華人民共和国建国以降も継続したが、1979年の米中国交樹立により、共産党は「台湾同胞に告げる書」で「平和統一」の方針を表明。1982年には、憲法に特別行政区制度が規定され、「一国二制度」に法的根拠が整備された。しかし2005年の「反国家分裂法」制定で、非平和的手段(武力行使)に法的根拠を与え、台湾への武力行使を正当化した。

中国共産党の基本方針として「一国二制度」自体は変わらないものの、その概念は当初から大きく変質している。2022年の「台湾問題と新時代の中国統一事業」白書を見ると、2000年の時点では「高度な自治」を謳っていたが、国家主権・安全・発展利益という前提条件が付され、軍と行政要員を派遣しないという文言が削除された。すなわち、自治の程度は中国の判断で決まり、人民解放軍、武装警察、公安警察などを派遣、駐留させる可能性は高い。

中国の対台湾武力行使の要件については、反国家分裂法の第8条に「中国からの分裂をもたらしかねない重大な事変」が発生した場合、「必要な措置を講じる」とある。また2000年の「一つの中国原則と台湾問題」白書では、断固たる措置を執る要件として、「外国による侵略と平和的解決の無期限拒否」をあげている。「重大な事変」の具体例は、国名変更・国連復帰・核保有などが想定され、また「外国による侵略」は米軍の公式な駐留が、武力行使の引き金になると予想される。さらに「平和的解決の無期限拒否」という要件は、中国の恣意的解釈に左右される点にも留意すべきである。

これに対する台湾の頼政権は、中華民国の現状を防衛し、「台独問題」は存在しない、両岸は互いに隷属しない、と明言した。つまり、頼政権下では実質的に平和的解決を無期限で拒否している状況であり、これを中国が武力行使要件に合致すると解釈したなら、戦争に発展する可能性があり、その時期はまさに中国の決心次第ということである。

・台湾併合後に予想される変化
仮定の話になるが、平和統一か武力統一かを問わず、台湾が併合された場合、台湾軍は武装解除され、人民解放軍が進駐することになる。その際、中国の国防方針は大きく変わる。

国防目標の最優先事項から「台湾統一」が消え、固有の領土に位置付ける南沙・尖閣諸島の領土保全へと移行する。そして海洋権益の確保のため他国のEEZでの海洋資源確保に海軍力を投入する。同時に台湾への人民解放軍移駐により、圧倒的な地理的優位を確保することなどが想定される。

わが国への軍事的影響としては、従来の台湾侵攻担任部隊や予備部隊を削減・再編できるようになり、その予算を他軍種に配分できるため、結果として日本対応部隊が増強されることが予想される。更に台湾の治安維持を担う陸軍部隊や、日比への戦力即応投射のための海軍陸戦隊などが台湾に駐留する可能性がある。

具体的には以下の戦力変化が想定される。対艦ミサイル戦力は、部隊が台湾に展開することで、台湾東方海域を通航する船舶に直接的脅威となる。弾道・巡航ミサイル戦力は、短距離弾道ミサイルDF-16(SRBM)などは南西諸島に指向され、より射程の短いDF-11などは日本を射程に収める中距離以上の弾道ミサイルに換装されるであろう。海上戦力は、台湾海軍基地に移駐することで、東シナ海・南シナ海・西太平洋が連続した一つの作戦空間として運用可能になる。また日米両軍に対応の時間を与えることなく、直接太平洋へ進出可能となる。航空戦力は、台湾の空軍基地を使用することで、日本の監視・防空網を分散させ、異方向から日本の防空に脅威を与える。加えて、台湾にレーダー基地が建設されると、台湾とフィリピン間のバシー海峡が監視範囲となるほか、海南島のSSBN基地を利用した排他的な運用が可能となれば、南シナ海の聖域化が完成する。

台湾統一により、中国の軍事力は日本や南シナ海方面に集中的に指向されることになる。東アジアの戦略環境が根底から覆るという現実を、わが国は肝に銘じるべきである。

 

『なぜ習近平氏は台湾統一にこれほど執念を燃やすのか 中国側の論理を4つの視点から読み解く』
 岩田清文・国基研副理事長・元陸上幕僚長

台湾への軍事侵攻という選択は、中国にとって極めて高い「賭け」にほかならない。世界経済からの孤立、国際社会からの制裁、そして軍事作戦そのものの失敗リスクがつきまとう中、なぜ習近平政権はこれほどまでに台湾統一にこだわるのか。その背景にある中国側の論理を、以下に示す4つの視点から読み解いていく。

① 統治の正統性(ナショナリズム):共産主義という看板が色あせる中、新たな統治の根拠とする必要
② 歴史認識:中国自身が「国共内戦は終了していない」と捉えている現実
③ 個人的野心:習近平氏自身が歴史に名を残したいという強い願望
④ 経済の減速:景気悪化に伴い、人民の関心を「物質的豊かさ」から「精神的誇り」へシフトさせる必要

中国が台湾統一に大きく舵を切った背景には、明確な政治路線の転換がある。かつて冷戦後の中国外交の基調は、鄧小平氏が提唱した「韜光養晦」(才能を隠し、力を蓄え、時を待つ)であり、この路線は胡錦涛政権期も維持された。しかし2012年に習近平政権時代になると、「韜光養晦」は姿を消し、これに代わって「奮発有為(勇んで事を為す)」「大国外交」という積極姿勢へと変化した。その潮流の中で掲げられた習近平氏のスローガン「中華民族の偉大な復興」の核心に、まさに「台湾統一」が位置付けられたのである。もはや中国は「力を隠す国」ではなく、「力を誇示する国」へと変貌を遂げ、その最大の象徴が「台湾統一」にほかならない。以下、上記の4点について順を追って説明する。

・視点1:共産主義の代わりはナショナリズム
 中国共産党の統治の正統性は、もともと「共産主義」に依存していた。当初は、「平等な理想社会の実現」を看板に掲げていたが、改革開放の進展に伴い貧富の差が拡大すると、それに代わり「生活を豊かにする(経済成長)」が新たな旗印となった。

 ところが、近年の経済成長に陰りが見え始めると、党の存在理由(レゾンデートル)を経済だけで説明することが困難になる。その打開策として新たに提示されたのが、「ナショナリズム(愛国主義)」に基づく「ナラティブ(物語)」である。「かつて列強から受けた百年の屈辱」というレトリックは、摩耗することなく何度でも利用できる「再生可能資源」となった。中華民族の誇りを取り戻すという物語は、共産主義の空洞化を埋めるための格好の材料なのである。

・視点2:終わっていない国共内戦
中国が捉える台湾問題は、決して「独立した二つの地域間の緊張」ではなく、「国共内戦の継続」である。1949年に蒋介石が率いる国民党政権が台湾に逃れ、大陸に中華人民共和国が成立したが、両者の間で正式な終戦の合意は結ばれなかった。直後に勃発した朝鮮戦争が、その決着を先延ばしにしたという歴史的経緯がある。したがって「台湾統一」は国共内戦の最終処理であり、あくまでも内政問題なのである。

加えて中国は、日清戦争(中国名:甲午戦争)後の下関条約によって、台湾と澎湖諸島が日本に割譲されたという「屈辱の歴史」を、自国の海洋進出が阻まれた象徴として記憶する物語を作り上げた。すなわち、中国が台湾を統一することこそが、「百年の屈辱」を克服する条件であり、これにより初めて中国は海権大国(シーパワーの国)、ひいては真の世界強国へと躍進することができるという。

・視点3:歴史に残る指導者になるという個人的野心
共産党の歴史において、党の過去を総括する「歴史決議」はこれまで3回しか採択されていない。1回目は建国の父である毛沢東、2回目は改革開放によって経済発展の基盤を築いた鄧小平の時代に採択された。そして習近平氏は、3回目となる「歴史決議」(2021年)を出した。その意味するところは、毛沢東や鄧小平という偉大な指導者に肩を並べ、さらには彼らを超えたいという習近平氏の権力野心の現れである、との見方が有力である。
異例の長期政権を維持する習近平が、歴史に不滅の事績を残すには、「台湾統一」は最も象徴性が高く、自らのレガシーとして国の内外に誇示する格好の目標といえる。

・視点4:景気悪化で「豊かさ」よりも「民族の誇り」へ
中国共産党は、その統治の正統性を「経済発展により生活を豊かにすること」に依拠してきた。しかし、その約束を果たすことが近年は困難になってきていることが、公表ベースの経済指標からもうかがえる。中国の実質GDPは2010年には10.6%に達していたが、習近平氏が総書記就任以降は減少傾向にあり、2025年は5.0%へと鈍化した。もはや共産党はかつてのような右肩上がりの「豊かさ」を提供し続けることはできない。その代わりに提示したのが、ナショナリズムという「精神的な誇り」なのである。

そして「台湾統一」は、この精神的な誇りを満たす物語において、最も象徴的で理解しやすい到達点に」ほかならない。

このように「台湾統一」への執念は、これまで述べた4つの視点に深く根差した長期的かつ構造的な課題である。習近平政権が台湾統一を決して断念しないという冷徹な現実を踏まえ、わが国は長期的な視座に立った戦略を早急に構築すべきである。

一連の報告後、出席者からの質問に答える形で補足説明が行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の一部を以下に紹介する。

 
【質疑応答】
Q: 仮に台湾が統一された場合、日本側の防衛体制にはどれほどの影響があるか。
A: 日米中のどの陣営も、軍事力という資源アセットの配分方法が大きく変わる。中国側の矛先が台湾から日本やフィリピンへと直接指向されるようになれば、日米側の防衛負担は激増し、抜本的な戦略的転換を余儀なくされる。航空戦力や海軍戦力の配分についても、日米で再調整が必要不可欠だ。特に、水中の領域において西太平洋の日米優位性を確保できるかが、今後の極めて重要な課題になるだろう。

Q: 習近平氏の執念は理解できるが、仮に同氏が失脚した場合、共産党の「台湾統一」方針は変わるのか。
A: 仮に習近平氏が退陣したとしても、基本方針が大きく変わることはない。共産党体制が存続する限り、台湾統一は共産党の至上命令(使命)であり続けるので、台湾問題の本質は継続するだろう。

Q: いわゆる「2027年問題」が取り沙汰されているが、仮に2027年を過ぎても台湾の現状が維持されていた場合、東アジアの戦略環境に影響はあるか。
A: 2027年という数字はあくまで軍事的な指標の一つ(解放軍健軍100周年)であり、共産党の決定事項というわけではない。中国研究者としても著名なオーストラリアのケビン・ラッド元首相は、2030年に向け台湾侵攻の確率が高まるとの分析を示す。次の台湾総統選の動向が引き金になる可能性もあり、両岸の緊張関係は継続して警戒する必要がある。

Q: 中国が台湾に侵攻したとして、占領後の統治コストは香港の比ではなく、相当高くなると予想されるが、果たして維持可能なのか。
A: 台湾の人口2300万人を統治するには莫大なコストを要することは確かである。しかし台湾が有する半導体産業を原資とした経済力は計り知れず、それが中国にもたらす外貨収入や技術的利益は莫大である。現在、台湾の対中投資が激減している中でも、台湾経済が堅調に成長している事実が、その強さを物語っている。したがって、経済的コストという観点から言えば、中国側にとって維持することは十分可能だろう。ただし、力による支配で台湾人の「民心」を根底から変えることは極めて困難である。(文責 国基研)