2018年11月の記事一覧
潮目が変わった「一帯一路」 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
11月22日に米自由アジア放送が、独自の情報源から得たとして報じたところによれば、中国共産党が米国との貿易戦争で疲弊し、最悪の状態に備えるよう指示する内部文書を出したという。他の情報源からも、経済状況の悪化による社会的なパニックが増加しているとのことで、中国企業の多くが閉鎖に追い込まれ、株・財産市場の変動で社会の対立が激化しかねないと予測している。 ●対米貿易戦争でも弱気に 11月1...
台湾与党敗北は対中融和派の勝利を意味しない 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
11月24日に行われた台湾の統一地方選挙で、与党の民進党が大敗し、蔡英文総統が党首を辞任することになった。統一地方選は約1年後の総統選の前哨戦であることから、中国と一定の距離を保つ民進党の敗北で、対中融和政策を採る国民党が政権を奪回する可能性が高くなってきたような印象を受けそうであるが、実態はもっと複雑である。 ●蔡党首の指導性に疑問符 蔡英文総統に近い人物がかつて「彼女は学者肌でコ...
国際司法裁判所の実態見据えよ 島田洋一(福井県立大学教授)
朝鮮人の戦時労働問題で、日本企業に賠償を命じた韓国大法院の判決を受け、政府は韓国側を国際司法裁判所(ICJ)に提訴する方針だという。 日本の勝訴は「100%確実」といった楽観論が政府内外から聞こえてくるが、猪突猛進は危ない。現に日本が合理的な主張をしたにも拘わらず敗訴した、わずか4年半前の事例がある。 2014年3月31日、オーストラリアが日本を国際捕鯨取締条約違反で訴えた裁判で、ICJ...
「徴用工問題」での橋本発言に物申す 髙池勝彦(弁護士)
この10月30日、韓国大法院(最高裁)は戦前のいはゆる「元徴用工」に対して、計4億ウォン(約4000万円)の支払を命じる判決を出した。この判決が法を無視したものであることについて我が国では珍しく与野党や全マスコミが一致してゐる。 判決に対して日本政府は、国際司法裁判所(ICJ)に訴へることを検討してゐるといふ。政府は、この判決があまりに不当であるから、ICJでの勝訴は当然であるかのやうにいつ...
中東のパワーゲーム映すカショギ事件 野村明史(拓殖大学海外事情研究所助手)
サウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏がトルコのサウジ総領事館で殺害された事件で、サウジ検察当局は11月15日、実行犯ら11人を起訴し、このうち5人に死刑を求刑した。サウジのジュベイル外相はムハンマド・ビン・サルマン皇太子の事件への関与を強く否定している。サウジは失墜した国内外の信頼回復と事態収拾に追われている。 ●サウジ追いつめるトルコの狙い トルコのエルドアン大統領...
「戦時朝鮮人労働者」と呼ぼう 鄭大均(首都大学東京名誉教授)
韓国大法院の「徴用工判決」に日本政府が批判的に対応しているのは好ましい。批判のなかで4人の原告を「徴用工」ではなく「旧朝鮮半島出身の労働者」と呼んでいるのも注目される。 ただし「徴用工」の名称については、「朝鮮人戦時労働者」(wartime Korean workers)と呼ばれるべきであるという提言が国家基本問題研究所からなされた。1941年から43年にかけて今日の新日鉄住金にリクルートさ...
首相の勇み足ではないか−日露首脳合意 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)
11月14日のシンガポールでの日露首脳会談は、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結交渉を加速させ、来年早々、安倍晋三首相が訪露することで合意したが、この合意により日本は固有の領土である国後、択捉両島を永久に失う恐れが出てきた。 「平和条約締結後に歯舞、色丹を引き渡す」とした日ソ共同宣言を基礎にすれば、2島が交渉対象となってしまうからだ。安倍首相はロシアの望む交渉枠組みに乗った形であり...
本当に、人手は不足しているのか 大岩雄次郎(東京国際大学教授)
政府は11月2日、単純労働を含む外国人労働者の受け入れ拡大に向け、新たな在留資格を創設する出入国管理法改正案を閣議決定した。人手不足の解消を要望する経済界の要望に応じ、高度な専門人材に限っていた従来の受け入れ政策を大転換させ、これまで認めてこなかった単純労働の受け入れにカジを切った 人手不足の問題は、これまでも幾度となく指摘されてきた。では、なぜ今回は、具体的な事実の裏付けや具体的な制度内容...
TPP11の拡大で中国の不公正を正せ 大岩雄次郎(東京国際大学教授)
トランプ大統領の就任とともに米国の離脱で「漂流」 が懸念された環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は、米国抜きの11カ国による「包括的で先進的なパートナーシップ協定(CPTPP)」と名付けられ、12月30日に発効することになった。来年には発効後初の閣僚級の委員会を日本で開催する予定で、新規加盟国についても協議する。 世界1、2位の経済大国である米中の貿易戦争や英国の欧州連合(EU)離脱を巡る...
「徴用」を「強制」と発信する英語報道 島田洋一(福井県立大学教授)
11月5日付の「今週の直言」で、西岡力氏が、朝鮮人の戦時労働を「日本企業の反人道的不法行為」だとした韓国最高裁の判決を批判した上、「ところが日本では、政府も、多くのマスコミや識者も、その事実認識が間違っていることを批判しない」と指摘している。 ●議論が本筋逸れていないか そして「このままでは、『過酷な強制労働をさせたことは事実だが、日韓はそれへの補償が1965年の協定で終わっているの...