政府は11月2日、単純労働を含む外国人労働者の受け入れ拡大に向け、新たな在留資格を創設する出入国管理法改正案を閣議決定した。人手不足の解消を要望する経済界の要望に応じ、高度な専門人材に限っていた従来の受け入れ政策を大転換させ、これまで認めてこなかった単純労働の受け入れにカジを切った
人手不足の問題は、これまでも幾度となく指摘されてきた。では、なぜ今回は、具体的な事実の裏付けや具体的な制度内容も曖昧なままに、法案成立を急ぐのか不可解である。
国の姿にも根本的な影響を及ぼしかねない制度変更には、慎重の上にも慎重を期すべきである。
●労働力人口は増加している
最近の人手不足は、労働需要が労働供給を上回っていることがその主因であり、労働供給の低下によって生じたものではない。
1990年代後半から減少傾向が続いていた労働力人口は、15歳以上の人口がピークアウトしたにもかかわらず、5年連続で増加している。つまり、生産年齢人口の減少が労働力人口の減少を引き起こしているわけではない。複数の民間シンクタンクの推計でも、労働力人口の増加は今後5年~8年程度は続くとみられている。
少子・高齢化の進行が労働力人口の押し下げ要因となっているが、女性、高齢者を中心とした年齢階級別の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口)の大幅上昇がそれを相殺する形となっている。
10年前には、2017年の推計労働力人口は、悲観的にみると440万人、楽観的に見ても100万人減少すると見込まれていた(厚生労働省『雇用政策研究会報告書』2007年)。ところが、実際は2016年には10年前を9万人上回った。つまり、減少するどころか、当初の見通しを最大で約400万人から最小でも約100万人も上回ったのである。
●まずは未活用労働力を活かせ
政府の統計でも、潜在的な労働力が相当の規模で存在することがわかる。「労働力調査」(平成30年7~9月期平均<速報値>)によれば、非労働力人口(15歳以上の人口のうち、「就業者」と「完全失業者」以外の者)4216万人のうち、就業希望者は323万人で、就業希望者のうち、1カ月以内に求職活動を行っていない就業可能非求職者は34万人いる。
政府は、就業者の中でもっと働きたいと考えている者や、非労働力人口の中で働きたいと考えている者などを「未活用労働」として新たに把握するために、新たに指標を作成し、平成30年1~3月期から公表している。それによると、未活用労働では、追加就労希望就業者は183万人、潜在労働力人口は40万人となっている。
政府は、まずこれらの労働力の活用に知恵を絞るべきである。そのための働き方改革や人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)の活用について検討も始まったばかりである。外国人労働の拡大以前に、国内労働の発掘が優先である。
●外国人労働拡大で問題解決せず
今回の外国人労働者の受け入れ拡大は、労働集約的な単純労働分野での人手不足対策を主としている。この分野の業種での人手不足は本来、賃金上昇による生産性向上により解決されるべき問題である。
つまり、外国人労働者の受け入れ拡大は、これらの業種の生産性を低水準に押しとどめ、非正規雇用を拡大するだけで、問題解決に資するとは思えない。また、新興国の賃金上昇、出生率低下に伴い、途上国からの持続的な労働供給に期待するのは危険であり、その反動による経済的損失は計り知れない。
日本経済の最重要課題は、生産性向上である。低賃金の外国人労働力の導入拡大はその流れに逆行し、むしろ日本経済の長期低迷リスクを高める。高度人材ですら、国内の「ポスドク」(博士号取得者で、非正規の任期付き研究者)が2015年度に16000人弱に達している(「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-2015年度実績-速報版」、文科省、平成30年1月30日公表)ことを考えると、外国人労働者受け入れ拡大政策の一貫性については大きな疑問を抱かざるを得ない。
目先の人手不足の解消のために、外国人労働力の受け入れ拡大、もしくは移民に頼れば、永遠に外国人に依存することになる。生産性の向上を通しての経済力の向上と出生率の回復なしに、抜本的解決はない。目先の利益で、外国人労働の拡大の問題を判断すべきではない。