トランプ大統領の就任とともに米国の離脱で「漂流」 が懸念された環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は、米国抜きの11カ国による「包括的で先進的なパートナーシップ協定(CPTPP)」と名付けられ、12月30日に発効することになった。来年には発効後初の閣僚級の委員会を日本で開催する予定で、新規加盟国についても協議する。
世界1、2位の経済大国である米中の貿易戦争や英国の欧州連合(EU)離脱を巡る欧州内での対立の中で、世界全体の国内総生産(GDP)の13%、世界の貿易額の15%、域内総人口約5億人に及ぶCPTPPを主導してきた日本には、世界の自由貿易を推進する原動力となることが期待される。
●RCEPで安易な妥協は禁物
TPP11の発効や米中貿易戦争が激化する中、中国は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の早期の合意成立で、経済における主導権回復を狙っている。そのために、RCEP参加16カ国のうち10カ国を占める東南アジア諸国連合(ASEAN)主導のRCEPを全面的に支持することで、TPP11や米国に対抗する中国に有利な経済連携の実現を図る狙いがある。
TPP11では、国有企業を外国企業より優遇して競争環境を歪めるような不公正な貿易慣行を認めていない。また、外資に対し、コンピューターソフトの中身の開示を求めたり、自国内でのサーバー設置を義務付けたりすることを禁じている。
しかし、中国では、国有企業は国家資本主義体制を支える基盤でもあり、それを揺るがすような協定は認められない。この点、ASEAN諸国もこの種の規定には極めて消極的で、TPP11のような高水準の自由化やルール作りで足並みをそろえるのは難しく、自由化水準の低い、緩やかな枠組みにとどめようとする傾向が強い。その結果、中国型の経済モデルがRCEPのみならず、アジアの標準となりかねない。
日本としては、RCEPの実現に力を貸すより、TPP11発効後の参加国拡大に注力すべきである。TPP11加盟国は発展段階が異なるが、知的財産権の保護など幅広い分野でルールを定めており、企業がビジネスを展開しやすくする質の高い協定である。11カ国は新規加盟国にも高水準のルールを求め、受け入れ側としても準備を急ぐべきである。
●中国の演出に乗せられるな
中国の習近平国家主席は、あらゆる機会をとらえて「自由貿易推進」と「保護貿易反対」の姿勢を演出している。
5日から10日の日程で上海で開催された「第1回中国国際輸入博覧会」の開幕演説で習氏は、今後15年間で中国のモノとサービスの輸入額が40兆ドル(約4500兆円)を超えるとの見通しを明らかにした。さらに、諸外国との商取引における障害を取り除き、輸入拡大に向け中国がさらなる努力をしていくとも述べ、保護主義や孤立主義を強める米トランプ政権を牽制した。
しかし、これに対して各国の受け止め方は厳しい。米国は輸入博開催を前に、北京の米国大使館を通じて同博には政府幹部を派遣しないと表明。「中国政府には必要な改革を通じて不公平な貿易慣行を見直し、米国の製品やサービスに平等かつ公平な競争環境を確保するよう要請する」との方針を明らかにしている。
またドイツとフランスの駐中国大使は11月1日、中国の経済誌「財新」に共同で寄稿し、中国では欧州企業が不公平な扱いを受けていると主張し、中国政府に「具体的かつ体系的な措置」を取るよう求めた。
両国の共同寄稿は異例であり、中国企業が欧州で事業機会を享受しているように、欧州企業も中国で事業機会を享受できる体制を整えるべきだとしている。
●日本は毅然と対峙すべし
これに対して日本は、世耕弘成経産相が5月9日、日中韓サミットを機に来日した中国の鍾山商務相との会談で輸入博に触れ、「日本は各社の出展を促し、新時代の日中経済貿易協力のモデルとする」と持ち上げた。
その結果、日本からは各国・地域で最多の約450社が参加し、中国側は、日本の総合機械メーカー不二越が正式に出展契約を結んだ企業の第1号であるとPRするなど、日本との良好な関係を演出して見せた。
こうした日本の姿勢は、本来正すべき中国の不公正な貿易慣行を擁護し、協調すべき欧米の信頼まで損ねかねない結果になっている。日本はTPP11の信頼を高め、一層の拡大を図るためにも、毅然とした態度で中国に対峙すべきである。