公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.11.28 (水) 印刷する

潮目が変わった「一帯一路」 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 11月22日に米自由アジア放送が、独自の情報源から得たとして報じたところによれば、中国共産党が米国との貿易戦争で疲弊し、最悪の状態に備えるよう指示する内部文書を出したという。他の情報源からも、経済状況の悪化による社会的なパニックが増加しているとのことで、中国企業の多くが閉鎖に追い込まれ、株・財産市場の変動で社会の対立が激化しかねないと予測している。

 ●対米貿易戦争でも弱気に
 11月14日に米有力シンクタンクでAEIが『一帯一路への支出に用心』というタイトルの報告書を公表した。それによれば、2014年1月から本年6月にかけて、一帯一路に関する建設事業は75カ国だったが、今年の6月下旬から10月中旬に至っては117カ国までに増加している。
 ところが今年上半期の私企業の投資割合は前年同期比で減少しており、私企業が参加を躊躇し始めた動きとして中国への圧力となっている。中国では外貨準備髙は減少を始め、米国への輸出制限にも脅かされるなかで、一帯一路計画への財政支出が懸念され始めている。
 中国は、貿易戦争が始まった当初、「奉陪到底(最後まで付き合ってやる)」と徹底抗戦の構えを見せていたが、最近になって100項目単位の譲歩項目を米国に提示したとの報道もある。自由アジア放送によれば、中国政府高官は、来るべき米中首脳会談についても悲観的な見通しを語っていると言う。

 ●債務の罠に警戒強まる
 中国が投資している多くの国からの反発も追い討ちをかけている。スリランカを〝借金漬け〟にして、ハンバントタ港を99年間租借した反動であろう。今年に入ってからマレーシア、モルディブ、ブラジルで反中政権が誕生。モルディブでは新政権が中国との自由貿易協定(FTA)を見直す方針を打ち出している。
 マレーシアは東岸鉄道と2本のパイプラインの建設を中止、ミャンマーは港湾開発事業の規模を5分の1に縮小した。パキスタンではペシャワル・カラチ間の鉄道工事を減額し、タイでは中国との合弁事業である高速鉄道について、港湾への連節部については日本との合弁事業に転じる方針も示している。
 アフリカ諸国でも、ケニアは国立自然公園を通過する鉄道に反発。現地では中国人が現地人を猿と呼んでトイレでも差別している。ガーナでは中国の無秩序な金鉱の発掘を数年前に禁止した。南アフリカは一方的な貿易構造の改善を要求している。
 紅海の入り口に位置するジブチに中国は軍事基地を建設したが、ドバイの港湾管理会社DP Worldは中国商人を告訴した。11月23日の米紙ニューヨーク・タイムズによれば、中国からの貸付によるシエラレオネ国際空港建設を政府が中止した。
 南太平洋のトンガでは中国からの債務返済にあえいでいるが、仕事も中国人が奪い、肝心の工事も粗悪で反発が強まっている。南米のコロンビアでは中国製の電気バス導入を締め出した。
 日本企業の中には中国の一帯一路事業に活路を見出している会社もあるようであるが、事業への参加については慎重な情勢分析が必要であろう。