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2018.11.26 (月) 印刷する

台湾与党敗北は対中融和派の勝利を意味しない 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 11月24日に行われた台湾の統一地方選挙で、与党の民進党が大敗し、蔡英文総統が党首を辞任することになった。統一地方選は約1年後の総統選の前哨戦であることから、中国と一定の距離を保つ民進党の敗北で、対中融和政策を採る国民党が政権を奪回する可能性が高くなってきたような印象を受けそうであるが、実態はもっと複雑である。

 ●蔡党首の指導性に疑問符
 蔡英文総統に近い人物がかつて「彼女は学者肌でコミュニケーション能力に欠ける」と言っていた。韓国の朴槿恵前大統領が「不通」と称されたように、蔡総統もリーダーとしての包容力に欠ける面があったのかもしれない。
 その結果、民進党が3分裂を起こしてしまった。則ち、より台湾独立を志向する人達が現状に飽き足らずに離反し、より中国と融和的な姿勢を見せるグループと、現状維持派とに別れて党としてのまとまりを欠いてしまった。
 今回の選挙結果を見て、台湾住民が中国寄りの国民党を支持するようになったと断定するのは早計である。その証拠に、約20年ぶりに国民党が勝利した高雄市長の韓国瑜氏は、選挙戦で国民党の実力者、馬英九前総統を応援演説に敢えて呼ばなかった。中国との距離よりも市民の生活レベル向上に争点を絞って選挙を戦い、国民党政権時代に比べて収入が減った観光業者等の支援を受けた。しかし、その影には中国共産党の工作が浮かび上がってくる。

 ●中国共産党の工作
 今月12日の「今週の直言」で筆者は「中国は人間を武器に使う」として、中国共産党が旅行会社に圧力をかけて、台湾のほか標的にした国への団体旅行をゼロにした実態を記述した。中国共産党の対台湾工作は、これにとどまらない。
 中国共産党は、統一戦線工作部を通しての公的ルートと、親中台湾企業等に働き掛ける私的ルートの二つを使用して、今回の選挙に干渉してきた。両ルートともソーシャルメディアを駆使するとともに、資金洗浄により親中候補を支援してきた。(詳細はTaiwan Newsの11月22日記事Diagram shows how China allegedly interferes with Taiwan's elections参照)
 民進党の敗北はそうした要因によるものであり、台湾の一般住民が親中的な国民党を支持するようになったと判断すべきではないと思われる。(了)