本国会における最大の争点の一つは、外国人労働者の受け入れ拡大問題となっている。国会の議論では、外国人労働者の地位や社会保障の適用が主に取り上げられているが、国防の視点からの質問は聞いたことがない。10月末にまとめられた自民党の法務、厚生労働両部会での決議にも、この視点は欠落している。両部会に出席した議員に聞いてみると、国防上の懸念を表明する議員は存在したものの、「それは別の機会に検討する」との説明があっただけで、このままでは、その機会が設けられずに来年4月の法律施行を迎えそうな状況である。
●中国動員法への懸念
国防上の懸念とは、在日外国人の中で圧倒的に首位を占める中国人(昨年末の法務省データによれば28.5%、73万人)の母国が2010年に制定した国防動員法である。海外在住の中国国民にも国家緊急時の動員に従うことを義務づけている同法により、仮に日中両国が紛争状態に陥ったとき、在日中国人が自衛隊や米軍の活動を妨害する後方かく乱任務に就く恐れがある。
国防動員法が制定される以前でも、2008年の北京五輪聖火リレーで、長野に在日中国人約4000人が動員され、チベット人らの抗議デモを妨害したのは記憶に新しいところである。それにも拘わらず、外国人労働者受け入れ拡大法案について議論した自民党の部会で、防衛省や警察庁の当局者が意見を述べる機会は設けられなかった。
今回の法案が成立すれば、法務省の外局として出入国在留管理庁を新設し、水道の蛇口を開閉するように外国人の出入国をコントロールできるようになるという。しかし、逆に、いったん大量に入国した人間を中国共産党がコントロールすることにより、中国の意に沿うような影響を日本に及ぼすこともできるのである。
●人間を武器に使う
今月に入ってからユーチューブで「どのように中国は観光を武器として使っているか」(How China Uses Tourism as a Weapon)という動画が流れている(https://youtu.be/o9nPTv5EjdY)。台湾との外交関係を維持しているパラオ、スカボロー礁などの領有権をめぐって対立したフィリピン、蔡英文政権の登場で関係が冷え込んだ台湾、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備で関係が悪化した韓国を困らせるため、中国共産党が旅行会社に圧力をかけて団体旅行をゼロにした実態が描かれている。
一時的に入国する観光客ですら、中国共産党は国益のために利用するのである。カネを落とすだけの観光客より、日本の生産力や産業構造に関係してくる長期滞在者を利用すれば、中国共産党は日本に対する影響力を一層行使できることになるであろう。(了)