戦時中に過酷な労働を強いられたとして、中国人の元労働者が日本企業を相手取り、損害賠償を求めて中国の裁判所に提訴する動きがまた出てきた。中国政府は、1972年の日中共同声明で放棄したのは国家間の賠償請求であって、個人による賠償請求は放棄していないと主張しているようだ。
しかし、日本は理不尽な賠償要求に屈してはならない。なぜなら、中国は実質的な戦争賠償として、終戦時に国内に残された日本資産を没収しており、元労働者への補償が必要なら、中国政府がその没収資産から支払うのが筋だからである。
終戦時に中国国内(旧満州国を含む)に残された日本政府・国民の資産のうち、建物、住宅、土地、預貯金、株式など非軍事資産の額は、連合国軍総司令部(GHQ)の集計で152億5000万ドルだった。1ドル=15円のGHQ換算率で2287億5000万円に相当する(大蔵省財政史室「昭和財政史―終戦から講和まで―第1巻」)。物価の物差しとなる戦前基準企業物価指数(1945年=3.5、2012年=674)で現在の価値に換算すれば、44兆0507億円となる膨大な額である。
これに加えて、中国が戦争賠償の代わりと考えているらしい日本の政府開発援助(ODA)は、2011年度までの累計で円借款3兆3164億円、無償資金協力1566億円、技術協力1772億円に達し、合計で3兆6500億円を超える(外務省資料「ODA国別データブック」)。
日本政府は、賠償問題は日中共同声明で決着済みという法律論だけでなく、資産没収の受け入れなどを通じて戦後処理をとうに終えていることを内外に発信すべきではないか。
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